15 蠱惑的な眼差し

 この声は…五条さんだ。ぼやけた視界に真っ白な髪と碧眼が映り込む。目の前で叫ばれているのになぜか耳障りではない。むしろ心地良い。

「__んっ…!ふぁっん…っ!んんっ…」

 噛みつくようなキスで宙に浮いているような感覚から引き戻される。五条さんが離れると、目を真ん丸にして口を半ば開けたまま彼を凝視した。

「集中しすぎて息してなかったから。…大丈夫?」
「へっ……あ…はい。…や、いいえ」
「術式で痛覚が感じないようになってる。初めてでここまでできるなんてえらいね」

 柔らかく微笑み、小さな子どもをあやす様に血に濡れた頬を手で拭われる。熱くなる顔を隠そうと下を向くと、五条さんが私の首元に顔を埋める。抱きしめられた勢いで椅子の前足が一瞬浮き、反射的に彼の首に手を回した。

「あのっ…血がついちゃうので…」
「無事でよかった」
「私も、そう思います」
「……もう一回、していい?」
「………あ、…はい…」

 柔らかい唇が唇に触れ、目を閉じる。彼の匂いと優しい口づけに体温が上がっていくがわかる。唇が離れたのでゆっくり目を開けると、まだ触れそうな距離で蠱惑的な碧い目が私を射るように見つめていた。

「五条先生、なにやってんすか」
「あ、恵〜覗き見はだめでしょ〜」
「様子見に来ただけですけど。というか、死体と血溜まりある部屋でキスって…」

 とんでもなくドン引きした顔で私たちを見る美型でツンツン頭の少年は大きなため息をついてスマホを取り出し、どこかに電話をかける。落ち着いて周りを見ると、部屋を荒らされたわけではないが、血溜まりと遺体、窓ガラスの破片がリビングの至る所に飛び散り普通に大惨事だ。ガラスが落ちた方に通行人等がいればかなりの大怪我、死亡者が出ていてもおかしくない。

「これ…私がやったんですよね」
「覚えてないの?」
「いえ、覚えてはいるんですけど、信じられなくて」
「まあ、何か物で刺したり殴って殺したわけじゃないんでしょ?」
「はい。私を…洗脳?しようとしていた女性は自分の舌を噛んで吐血…。この男性は私の首を締めてすぐ倒れて…」
「半分無意識で相手の意識及び感覚をいじった感じかな。男の死因が気になるね。相手の人数や顔は思い出せる?」
「はい。警察に事情聴取されるんでしょうか」
「いや、相手が呪詛師だからうちが担当するよ。しばらくしたら恵が呼んだ補助監督が来るはずだ。ここで待ってるのもアレだし、外に出ようか」

 この人、さっきまでキスしてたくせになんでこんな平気な顔してるの?こっちは恥ずかしくてちゃんと顔見れないってのに。やっぱり超絶イケメンに惚れるなんてだめだ。地獄確定だ。キスも超上手だったし絶対だめだ。

「五条先生、その人治療しなくて大丈夫なんですか」
「ああ、止血は自分でしたみたい。そんな大きい傷じゃないし、痛覚もなくしてるみたいだから大丈夫なんじゃないかな。ね、詩織」
「はい。病院には後で行きたいですけど」
「痛覚をなくす…?」
「うん。意識に加えて感覚も操れるなんてね。部屋はこんなになっちゃったけど、大きな収穫だよ」
「あの、ガラスの破片が外に飛び散ったと思うんですけど…大丈夫だったんでしょうか…」
「ああ、それなら落ちてくる前に俺が片付けたので大丈夫です」
「この子も、呪術師なんですか?」
「そ!これからよく一緒に行動することになると思うから、仲良くしてね」
「相川詩織です。ご迷惑をおかけするかと思いますが、よろしくお願い致します」
「伏黒恵です。…こちらこそ、よろしくお願いします」

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