16 先案じ

 車中での事情聴取が始まる前に、頂いた濡れタオルでほぼ固まっている血を拭う。伊地知潔高と名乗った補助監督の男性に消毒をして頭の傷をみてもらったところ、止血はしっかりできているが念の為医師に診てもらった方がいいとのことだ。
 事情聴取では玄関で殴られたところから全てを話した。だが、洗脳の部分から何度か同じ様な質問をされ話が進まないでいる。

「ですから、洗脳しようとした女性は舌を自分で噛んで吐血したんですよ。男の人は私の首を締めてすぐ倒れて、仲間が脈を確認したら死んでたんです!」
「はぁ、なるほど…。それで、その人たちは仲間割れでもしていたんですか?」
「私がやったみたいなんです!あなたで証明しないといけませんか!?」
「いえ、結構です」
「私も呪術規定に基づいて裁かれるのでしょうか!?」
「それは…」
「詩織は精神系の呪術を使うんだ」

 車の窓からひょこりと顔を出した五条さんは、運転席で頭に疑問符を浮かべていた伊地知さんに私の術式について簡単な説明をした。それを聞きながら呆れと諦めが混じった表情でメモを取り、ご協力ありがとうございます。お疲れ様でした。と少し疲れた顔でこちらに頭を下げる。

「こちらこそありがとうございました。あと、五条さん。私のこと話してなかったんですか?」
「あれー言ってなかったっけ?」
「聞いてません…」
「いつもこんな感じなんでしょ…。私、精神鑑定受けさせられるのかと思いました!しっかりしてください!」
「まあまあ詩織、落ち着いて。今回君を襲ったのは、最近ここら辺で連続殺人事件を起こして僕らが追ってた呪詛師だった。だから君の正当防衛は確定したよ」

 私が後部座席から睨む様に見ると、窓際に腕を置いてニコニコとご機嫌そうに笑う。そんな彼の後ろから呆れ顔の伏黒くんが声をかけた。

「五条さん、そろそろ出発しないと」
「もうそんな時間かぁ」
「では、私はここで失礼します」

 伊地知さんが車から降り、五条さんが運転席に、伏黒くんが私の隣に座る。車が出てすぐかかりつけの病院が見えたので五条さんに降ろしてもらうようお願いしたが、呪術師は普通の病院ではなく高専の医師に診てもらうらしい。よく怪我をする仕事だと言っていたので、あまり頻繁に受診すると怪しまれるのだろう。

「相川さんって高専卒じゃないですよね。術式も特殊みたいですし、いきなり実戦連れてったりして大丈夫なんですか」
「だから僕が面倒みるんだよ。まあでも詩織には二級くらいにはなってもらわないとね」
「二級?ってどれくらいなんです?」
「散弾銃でギリ倒せるくらいのを相手できます」
「私を化け物にする気ですか」
「ちなみに僕は特級!」
「五条さんはクラスター弾の絨毯爆撃で互角くらいのを余裕で相手できます」
「バケモンじゃないですか!」
「ひっどーい…」
 
 呪術高専に着くまでの間、高専で学ぶ基本的な“呪い”の知識を二人から教わった。私の術式はかなり特殊らしく、五条さんでも今まで片手で数える程度しか精神系の術師を見たことがないらしい。
だがそんな話はどうでも良い。驚くべきことに五条さんは呪術界御三家の一つである五条家の現当主であり日本に四人しかいないという特級呪術師。界隈では最強と謳われているらしい。しかも超絶イケメン。なんだその盛りに盛った設定は。最近流行りのなろう小説の主人公かとツッコみたくなった。そんな呪術界を背負う人がこんなちゃらんぽらんで大丈夫なのか。軽率にちゅーするような人で大丈夫なのか。

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