狼狽

 定刻になると、バーチカルブラインドが閉ざしていた朝日を静かに部屋に招き入れる。
ストライプの光が丁度顔に当たり目が覚めた詩織は大きなあくびと伸びをして窓の外を見た。

 昨日の台風が嘘の様に清々しい朝に小さなため息が出る。
 どうやら仕事を終わらせた後そのままリビングで寝てしまった様だ。そういえば昨日の夜はシャワーを浴びていなかったっけ。
昼間に一度浴びていたからそんなに気にはならないが、夜までこのままのわけにはいかないし浴びないと。

 面倒くさがりながらもサッとシャワーを済ませ、浴室に置いてある化粧水とクリームを簡単に顔と体に塗り込む。
 そこで下着と着替えを持ってくるのを忘れていた事に気づいた。
たまにあることなので気落ちすることはない。私は物を忘れたり小説で書いたことが本当にあったことだと勘違いするといううっかりでは済まされないことがある。病院で診せたがどうやら病気ではないらしい。驚きである。
 バスタオルを身体に巻いて寝室のクローゼットを漁っていると、静かな寝室に布が擦れる音が響いた。え、いま布団動いた?
恐る恐る後ろを振り返ると、真っ白な髪から覗くサファイアの様な真ん丸な瞳と目が合った。

「え、夜這い?朝だけど」
「ハッ!えっ…ごじょさん!?ち、違います!!これはその…え、ちょ!近づかないで!ください!」

 布団から出てフラフラ歩いてくる五条を見てパニックになる詩織。
彼は小さくため息をつくと、自分の着ていたパーカーをうつむいている彼女の肩に掛けた。

「別に襲ったりしないよ。ほら落ち着いて」
「あ、の…ごめんなさい…私、取り乱して」
「もしかして、僕の存在忘れてた?」
「ぅっ……本当にごめんなさい…」
「マジか〜」

 大きく肩を落として落胆を盛大に表現する五条さんに申し訳ない気持ちが積もる。
 客人の存在を忘れてタオル1枚で部屋に入る人間がいるのか。信じられない恥さらしだ。優しくされずに叫ばれた方がまだ良かった。

「まあ、こういうこともあるよね」
「ほ、ほんとですか」
「いや僕はないけど」
「……」

 まだ濡れている髪からポタリ、ポタリと水滴が落ちる。
 情けなくて顔向けできないが露わになっている美しい上半身をジロジロ見るわけにも行かず床をガン見していると、じゃあシャワー借りるね。とイケメンはいつもの笑顔で消えていった。
 何もしていないのにドッと疲れた気がする。全て自分のせいなのだが。

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