如何わしい

「___じゃあ表紙はこんな感じで。よろしくお願いします」
『相川先生、なんか元気ないみたいだけど大丈夫?』
「あはは、まあ色々ありまして…」
『何かあれば何でも言ってね!僕の仕事は先生を支えていい話書いてもらうことだからさ!』

 担当編集者の内山さん、いつもこうやって私を元気づけてくれる。
 数年前小説投稿サイトで思いのままに書き殴っていた私の作品を見つけ出し、本の出版を勧めてくれたのも彼だ。
どうやら界隈では有名な方らしく、何人もの小説家を担当し横の繋がりも広い。おかげであまり苦労なく伸び伸びと執筆活動ができている。

「内山さん、小説の確認も打合せも急にお願いしてすみませんでした。いつもありがとうございます」
『いいのいいの!これからも頑張ろうね!相川先生』

 ビデオ通話を終えてPCを落とす。
 コップに残っていたコーヒーを飲み干してふと感じた視線に目を向けると、五条さんがじとーっと碧い目を細めて扉から覗いていた。

「ど…どうかしたんですか?びっくりするじゃないですか」
「また僕のこと忘れてた?」
「忘れてないですよ!こうやって外着にも着替えましましたし」

 椅子から立って数少ないお出かけ用の服をひらりと見せると、似合ってるよ。と完璧なコメントをくれる。
お世辞でもイケメンに褒められるのは嬉しいものだ。

「洗濯、ありがとね」
「いえいえ、洗剤入れてボタン押しただけなので。…あれ、そういえばサングラスかけないんですか?」
「ん?」
「ずっとかけてたので、碧眼だと間接照明だけでも眩しいのかと」
「んー、たまには薄暗くない君も見とかないともったいないじゃん」
「またそんな歯が浮くようなことをスラスラと…」

 照れくささを誤魔化すように小さくため息をつき、五条さんを寝室から追い出そうと身体をグイグイ押す。だがなかなか動かない。もしかして筋肉量多すぎて体重とんでもない…?

「これ何の遊び?」
「遊んでないです!速攻お化粧するので、用事がないならリビングにいてください」
「あぁ、それならちょっと外出てきていい?」
「全然いいですよ。朝ご飯でも買いに行くんですか?」
「いや、パンツ買いたいんだよね」
「ぱん、つ…?」
「昨日の履くわけにもいかないし。ずっとノーパンだと流石にね」
「ずっと!?なっへ、ヘンタイ!!!はやく買ってきてください!!!」

 昨日からずっとノーパンということは隣で本を読んでたときも、抱きつかれたときもノーパンだったってコト!!?なんて破廉恥なイケメンなんだ!!?タオル1枚で歩き回ってた私が言うのも何だけど!!
 真っ赤になっているであろう顔を両手で覆って指の間から睨みつけると、五条さんは心底面白そうにケラケラ笑いながら寝室から出ていった。
 動揺しすぎて心臓が胸を突き破って飛び出すかと思った。本当に勘弁してほしい。

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