恋人
サムが死んだ日から3日がたった。
ジャックとはあの後恋人になった。
「こんなときにこんなこと言うのも、不謹慎だと思うけど、あいつは俺の思いを一番に応援してくれてたから…。きっとここで俺が遠慮したら怒ると思うんだ。」
なんてことを延々と話して聞かされて、お付き合いを申し込まれた。私は複雑な気持ちだけどうれしい、そんな表情を意識した。
サムが死んだあの日、船長さんが、「お前が初めから前線に出ていればああならなかったはずだ、どうして後ろにいた?」と聞いてきた。
私は「その方がいいかなと思ったので。」と答えたら、やっぱりわらってた。
「後悔は?」と聞いてくるから「しています…。すごく残念です。」と返した。やっぱり船長さんは少し意地悪だ。
私は後悔なんか少しもしていなかった。
だってあの環境を望んだのはサムで、彼は自分の願望をかなえながら死んだのだから、そんな悪いことにも思えなかった。
別に私だってバカな子じゃない、自分の感覚はやっぱちょっとずれてるんだろう。
でもあの時はジャックが私を守る状況にに満足していてサムもそんな環境を望んでいた。
そしてジャックに恋している…はずの私はそれに賛同するべきだと思ったのだ。
その結果サムが死ぬことになったのは残念だが、それは結果論だ。あの日サムが死ぬことまでは予想できなかった。
サムが死んだことと私が恋愛ごっこに興じたことは別の話だ。
ねぇ、そう思うでしょう?それともやっぱり私が間違えてる?
心の中でなんとなく船長さんに聞いてみた。やっぱり返事はしないでただ笑っていた。
心がないわけじゃない、悲しい。悲しいよ。そう思っても涙は全く出てこなかった。
今日はひさびさの休日で、ジャックとデートをしていた。
ジャックはことあるごとに私に聞いてきた。
「俺、本当にnameのこと好きだよ。ねぇ、nameも俺のこと好きだよね?」
そのたびに私は「もちろん」と答えた
彼は優しいし顔も悪くない。人としても魅力的だし、何より私を好いてくれる。
嫌いになる要素なんて一つもない。好きだ。それでもあんまりにも彼がそれを聞いてくるから、私まで疑問に思えてくる。
私のこれは、好きとは言わないのか。やはり、恋というのはこれではないのか。
でも、じゃぁ、それなら私にどうしろっていうんだ。彼の期待にはどう答えればいいんだろうか。
彼を不安にさせる理由と、私がサムの墓の前で泣けない理由は、なんとなく近いような気がした。
サムが死んだあの日以降も、ハートの船長さんは私をひいきにした。むしろ前よりひいきにした。
キャバのときだけじゃなくて、船番のときも私を指名した。
もとより、高い賞金がかかってる船にはフリージアの中でも実力者を付けるようになってるから、私が行くことが多かった。
小さいころから船番になることが望まれてた私は幼いころからそうなるように育てられた。
船番というが、頼まれれば家だって守る。ようは悪党から自分の身を守る、金で雇う海兵みたいなものだ。もちろん、正義は背負ってないが。
今日も私はライラックで、船長さんに指名されて真っ赤なドレスを着て隣に座っていた。
船長さんは私にいろんなことを聞いてくるようになった。
好きな色は、好きな食べ物は、そんな単純な質問も多かったけど、たまに掘り下げた質問もしてきた。今日はそんな日だった。
「恋人は?」
「…最近できました」
「船番のあの男か。」
「よくご存じで。」
「あいつが俺に聞こえる声でお前に愛を囁くからなぁ?」
「…。」
何を言わせたいんだろう。いやきっと、この人はそんな私の反応で遊んでるだけなんだけど。
それにしても本当に疑問だ。船長さんくらいのひとなら私の安っぽい演技なんてバレバレなのに。
「お前あの男が好きか?」
「恋人ですから。」
「んなこと聞いてんじゃねぇよ」
「船長さんの趣味は人間観察、この一択ですね。」
私が答えられないことをわかっててしつこく聞いてくるから私は眉をひそめて話を逸らす。
ジャックと付き合ってまだ数日だけどやっぱり一つ理解したことがある。
私には恋という感情も無いようだ。ジャックが必死に投げてくる小石でその分だけ水面は揺れる、けれどそれだけ。
下からなにか湧き上がることはない。花畑に色がつくこともない。
やっぱり、恋という簡単そうな方法に頼って色を取り戻す作戦は失敗だ。私の世界はいたって平和なままだ。
恋をしたら世界が七色に輝くって、この前読んだ本に書いてあったのになぁ。
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