渡辺みのり


「プロデューサーみて!!!!」
「げっ...そのブロマイドどこで手に入れたんですかみのりさん.......」
興奮した様子で両手に掲げているのは紛うことなき、346アイドル時代の私が写ったブロマイドだった。それも自分の周辺では桜庭さんしか持ってないだろうというくらい前の、デビューしてすぐ地方営業をしていた頃の物で。
「実はドルオタの友人が譲ってくれてさ!」
俺もう嬉しくて...とみのりさんの片手が目元を抑えていた。ピエールくんが「泣かないで、みのり」と嗚咽を漏らすみのりさんの背中を摩っている。「仕事の時は大丈夫だったんスけど、プロデューサー見たら我慢してた分の感動が決壊したみたいすね」とキッチンスペースから恭二くんの声が聞こえてきた。
「昔の自分がこうして残ってるのは恥ずかしいですね」
私は思わず苦笑してしまう。今よりずっと思考が幼かった私を思い出すとキラキラした何かを見つけられなかった頃の苦々しい気持ちが蘇るのだ。
「そうかな?俺はこうやって昔のプロデューサーの事を知れるって嬉しいけどね」
ふわりと微笑んでくれるみのりさんに心がぽかぽかした。そっか、私はまだどこかでアイドルとして誰かを笑顔にできてるんだ。恭二くんが、みのりさんの場合はただのアイドル追っかけっすけどねと漏らすとみのりさんからチョップを食らっていた。
「…サイン、しますか?今じゃすっかりプロデューサーですけど」
そう言い終えるとみのりさんは膝から崩れ落ちていく。ゆっくりと差し出された両手にはブロマイドといつの間にか用意されていた油性ペンが握られていた。現役時代のサインを書いて返すと、これ家宝にするね…というみのりさんの涙声がやけに静かな事務所に響いた。