眉見鋭心


キレイな水に入れ替えた水色のポリバケツを入口近くのロッカー前の床に置いて、ふっと息を吐き出した。今日は年末の恒例行事、事務所の大掃除の日である。
「今日はわざわざ事務所まで来てもらってありがとうね」
埃を1つでも残すまいとロッカーの上を雑巾で掃除していた眉見くんは手を止めてこちらへ顔を向けた。
「俺達も1年世話になった事務所だからな。年末の大掃除となれば手伝うのは道理だろう」
彼からしたらこの大掃除も仕事の一環でそれを真面目にこなしているだけだろうが、もっと肩の力を抜いていい行事だ。視界の先には床掃除をしていたはずの四季くんと隼人くんがモップ片手に歌い始めているのが見える。天峰くんや花園くんはそれを可笑しそうに見ながらも楽しそうに輪に加わっていた。思わず笑ってしまった私の視線の先を向いた眉見くんは困ったようにため息を吐いていたが、その表情は柔らかいものだった。
「終わったら皆でカフェパレードや料理の上手な人たちが用意してくれた軽食やお菓子が待ってるからね」
上の階ではカフェパレードの皆をはじめとしたお料理上手なメンツが簡単なパーティーの準備を始めているのを先程確認してきた。
眉見くんはギュッと口を結んでしまった。年末のだしもしかしたらご家族と用事があるのかもしれない。
「この後何か用事でもあるかな?そうしたら無理にとは」
「...いや、大丈夫だ。両親は年末も忙しいからな。家に帰っても俺しかいない」
私の言葉に被せるように言う眉見くんの顔をちらりと見上げると、自然と視線が合う。
「ここには百々人や秀、事務所の皆やお前がいる。今年は賑やかでいい年末を過ごせそうだ」
蛍光灯の光にキラリと反射したエメラルドの瞳はゆるりと細められた。