薔薇と宝石の約束




授業の真っ最中、カツカツと音を立てて担当の教師がびっしりと黒板に字を書いていく。

それを見ようともしない生徒が2人居ることに気付いているのは、その後ろに居る青子だけだった。





jewel.10
〈白き奇術師との邂逅 3〉







(柚希、すげー真剣な顔して何考え込んでるんだ?)


朝、自分が登校してから授業が始まるまでは、昨日と何も変わった様子もなく、普通に会話をしていたはずだ。

それが、授業開始と共に何か考え込んでいる様子で、柚希の視線は空白のノートの一点から全く動かない。

昨日同様、2人の机の間に広げられている教科書にも、授業をしている教師や黒板にも全く意識が向いていなそうだ。

そんな柚希をじーっと不思議そうに、そして心配も混じった目で見つめている快斗も、それは同様だった。





「柚希。……おーい、柚希ちゃーん!」


授業が終わって周りがざわつき始めても動こうとしない柚希に、快斗が声を掛けるが気付かない。
目の前で手をひらひらさせながら、もう一度大きめな声で呼んだ時、初めてハッとしたように快斗の方を向いた。


「あ……ごめん、快斗。考え事してて。」

「授業始まってからずーっとだよな。どうかしたのか?」


そう言う快斗の目が心配してくれているのに気付いて、慌てて否定する。


「あ、違うの。別に深刻な事とかじゃなくて…何て言うか、クイズが解けなくてムキになってる感じかな?」

「クイズ?」


正確には暗号だけど、と言いながら携帯の画面を見せる。
そこに映った画像は、快斗にも良く見覚えのあるものだった。


「これ、キッドの予告状じゃねーか!」

「……“キッド”?」


ポカンとした様子の柚希に、快斗は少し驚く。


「まさか知らずに解こうとしてんの?」

「え?いや、私は怪盗1412号っていう名前だけ聞いてて…そっか、日本で定着してる名前って“怪盗キッド”って言うんだ。」

(キッド…KID……そして1412…そうか、聞き覚えがあったのはきっとお父さんのファイルのあの話……)


「あぁ、キッドが活動再開したのは割と最近だし、柚希はアメリカに居たから知らなかったのか。」


そこまで言って、快斗にもう一つの疑問が浮かぶ。


「つーか、何でその予告状の写真を柚希が持ってんの?今回マスコミに公開されたのは文章だけで、予告状の写真はなかったはずだぜ?」


いつもは警視庁がマスコミに公開した予告状そのものの写真を使って報道されるが、今回は園子の父が破いてしまった為、それが無かった。


「このターゲットになってる鈴木財閥の次女が、小中学校の同級生なの。私が帰国したのを知って、昨日送ってきたんだよ。」

「へぇ。なるほどね。」

(って事は、船上パーティーに柚希も誘われる可能性が、少なからずあるって事か…)


そう簡単にバレるはずないが、怪盗キッドとして柚希と接触する事は出来れば避けた方が良い。しかし今回変装する予定の子が鈴木財閥の娘の友人なのを考えると、そうも行かないのかも知れない。
そんな事を考えていると、突然青子が話に入ってきた。


「安心して、柚希!キッドはお父さんが必ず捕まえてやるんだから!」

「お父さん?」

「そう!青子のお父さん、警察で働いててね、キッドを捕まえる為にいつも頑張ってるの!」


目をキラキラと輝かせて父親の事を話す青子を見て柚希が微笑んでいると、快斗が口を挟む。


「頑張ってるったって、いっつもキッドに逃げられてばっかじゃねーか。」

「何よ!今度は絶対捕まえてみせるもん!」

「無理だね!どーせまたキッドにダミーを追いかけさせられるだけだよ。」


そんな2人のやり取りを見ていた柚希は思わず笑ってしまう。


「え、柚希?」

「ごめんごめん。2人とも仲良いなと思って。」


まだ笑いを残したままそう言うと、2人から同時に否定の言葉が飛んでくる。


「あはは。それにしても、青子はお父さんが大好きなんだね。」

「うん!お父さんはこの街を守ってくれてるんだもん!柚希のお父さんは?」

「え?私のお父さん?」


自分の父親について聞かれるとは思わず一瞬ポカンとするが、その顔を思い浮かべるとほんの僅かだが眉を寄せた。


「んー、良い人なんだけどちょっとムカつく人だなぁ。推理小説家なだけあって頭が凄く良いんだけど、何もかも分かった顔して、こっちが真実に気付くのを見て楽しんでたりとか、わざと小出しで遠回しなヒントを出してきたりとか。それに過保護すぎ。心配だからとか言って、中学卒業したら強制的にアメリカに連れて行かれたし。新一…お兄ちゃんには来いって言わなかったのに。しかもいざ私とお母さんを選ぶ様な場面になると、迷わずお母さんを選ぶくらい惚れ込んでるんだから、私の事はほっといてくれれば良いのに…………あ。…ご、ごめんね。」


言い始めたら止まらない、とでも言うように色々喋り過ぎた事に気付いて柚希は恥ずかしそうに謝った。


「いーのいーの!本音が聞けるのは嬉しいもん!」

「青子、ありがと。」

「柚希可愛いー!」


突然ギュッと青子に抱きしめられ、驚いて快斗の方を見ると、優しく微笑んでくれた。
まるで、友達が出来て良かったな、と言われている様な気がして嬉しくなり、柚希は柔らかい笑みを浮かべた。

update 2014.10.22
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