「柚希、帰ろうぜ!」
HRが終わり、当然のようにそう言ってくる快斗を、柚希は申し訳なさそうに見上げる。
「ごめん快斗。今日は先生に呼ばれてるから、すぐには帰れないんだ。」
「ん?そうなのか。じゃあ仕方ねーな。」
「うん、ごめんね。」
もう一度謝ると、柚希は教室を出ていった。
jewel.11
〈白き奇術師との邂逅 4〉
職員室でクラスでの様子を聞かれたり、届いた教科書を受け取ったりしてから教室に戻る頃には、空が夕陽で赤く染まっていた。
「え?快斗?」
誰も居ないと思って入った教室には、机にうつ伏せて寝ている快斗の姿がある。
そっと近付いてみるとスースーと寝息が聞こえてきた。
「快斗。…起きて、快斗。」
声を掛けながら肩を軽く揺すると、小さく身動ぎしてからゆっくりと起き上がる。
「ん?……おー、柚希終わったのか。」
「もしかして、待っててくれた?」
「暇だったしな。それに、まだ暗くなるのも早いし。」
チラッと外を見る快斗につられて同じく外を見ると、夕陽の赤がよりいっそう濃くなっていた。
「そっか、ありがとう。」
そう言って嬉しそうに笑う顔を見て、快斗は思わず顔を背ける。
(だから、反則だって!!)
「快斗?」
「いや、何でもない!それより、そんな荷物あるなら尚更待ってて良かったぜ。」
赤くなった顔を出来るだけ見せないようにしながら、鞄と柚希の教科書一式を手にして歩き出す。
「あ、うん。ありがとう。」
どうかしたのかと疑問を浮かべたまま、柚希は後を追いかけた。
「そういえば、お前自炊してんの?」
帰り道を歩きながら、快斗はふと気になり聞いてみた。
「一応そのつもりなんだけど、まだ調理器具とかも揃えてないし、週末まではコンビニとかで買っちゃう予定。」
「へー。じゃあさ、どっか寄って食べて行かねー?」
「え、快斗は家で用意してたりしない?大丈夫?」
「おぅ、しばらく親が出掛けてるから、俺も一人なんだよ。」
自分に合わせて、家族が用意した物が無駄になってしまうと悪いと思ったが、心配無かったようで安心する。
「そうなんだ。じゃあ是非!」
帰り道にあるファミレスに寄って、夕食を食べ終わってからも少し話込んでいた為、帰る頃には20時を優に越えていた。
「すっかり夜になっちまったな。」
「ホント、快斗と話してると時間忘れちゃうよ。」
「それは光栄だな。」
快斗の台詞に2人で笑い合う。
「でも、本当に久しぶりだよ!誰かと外で食事する…なんて……。」
(……食事?……あ、もしかして!)
自分の言葉に引っかかり、ふと考えるとある事に気付く。
「柚希?」
「あ、ごめん何でもないよ。今日も送ってくれてありがとう。」
「おぅ、また明日な!」
「うん、またね!」
柚希の家に着いて、手を振り別れる。
昨日と違い、快斗が見えなくなる前に家に入った柚希を、快斗はチラッと見ていた。
自分の部屋に入り荷物を置くと、そのままテーブルの近くに座る。
(「月が二人を分かつ時」…これが人工衛星と太陽の間に月が入る“食”の瞬間だとすれば色々と辻褄が合う。)
そう考えながら携帯に予告状の写真を表示する。
(漆黒の星、ブラック・スターの頭文字はBとS。つまり“食”によってBS放送が中断する深夜12時半から4時半の間に来るっていう事。そうすると、「波にいざなわれて」の“波”は“電波”だと考えるのが自然…)
携帯をテーブルに置き、パソコンを立ち上げると、3D表示で見られる地図を出す。
(BS放送の電波は南から西に45度、水平線から上に42.3度の方向から送信されるから、米花博物館からそれに該当する場所は………)
「これだ、杯戸シティホテルの屋上!」
確信すると、すぐに携帯を手に取り電話帳から“江戸川コナン”の名前を選ぶ。
「んー………。」
しかし、通話ボタンに指が触れようとした所で、その動きが止まる。
(予告日は明日。もし新一がまだ解けていなければ、何か気付いた事が無いか連絡してくるはず…。)
つまり、既に新一は解いていて、柚希を巻き込むまいと黙っているか、キッドを捕まえる事で頭がいっぱいで忘れているのだろう、と考えた柚希は携帯を手放した。
(ま、新一の事だからどうせ後者でしょ。……ん?そういえばキブシって…)
もう一度パソコンの画面に映る杯戸シティホテルを見ると、まるでいたずらっ子の様な笑みを浮かべた。
(それじゃあ私は私で、レトロな怪盗さんに会いに行きましょーか!)
update 2014.10.24