薔薇と宝石の約束




そっと扉を開けた先には、見知った人物の他に人影が1つ。

純白のシルクハット、そして純白のマントを靡かせたその凛とした後姿に、柚希は思わず目を奪われた。


(こんな目立つ格好で……神出鬼没で大胆不敵…なるほど、ファンも多い訳だ。)





jewel.12
〈白き奇術師との邂逅 5〉







柚希の家の前で分かれた後、快斗はその直前の柚希の様子を思い出していた。


(さっきの様子…予告状の答えに気付いたのか?そうだとしたら、柚希にあの写真を送った鈴木財閥のお嬢様に伝わるだろうから、少し警備がキツくなるか。ま、今回はそれでも構わないけどな。)









「ん?ろくに警備が増えてねぇじゃねーか。屋上なんか誰も……いや。」


ハンググライダーで杯戸シティホテルに近付いたキッドは、予想と違う様子に首を傾げる。
そして、誰も居ないように見えた屋上に小さな人影を見つけ、ニヤッと笑った。




「よぉ、探偵くん。」


屋上の扉の上に降り立ったキッドは、待ちかまえていたコナンに声を掛ける。


「来やがったな、怪盗キッド!」

「良く分かったな、あの予告状。」


コナンと同じ高さに降りて、フッと笑う。


「あぁ。日にちを表すキブシの花に関しては、人に聞いて分かったけどな。」

「ほー。花に詳しい人間が居るって訳か。まぁ、日にちはあくまでついで。あの花に合わせて今日にしただけだけどな。」


口元に笑みを浮かべたままそう言うキッドを、コナンは訝しげに見る。


(ついで?あの花に、他に意味があるって事か?)


−−カチャ


屋上の扉が静かに開かれるのを、背を向けているキッドも、そのキッドを睨んでいるコナンも気付かない。

10センチほど開いた扉から様子を見た後、今度は遠慮なく音を立てて扉を全開にする。


「柚希?!」
(え、柚希?!)


音に反応した2人は、扉を開けた人物の姿を見て目を見開く。


「オメー、何でこんな所に!」

「何でって、会いに来たに決まってるじゃない。今時、予告状を送りつけるなんて律儀な事をしてる、その怪盗さん…に……」


驚いた顔のコナンにそう言いながらキッドの方に視線を向けると、後姿しか見えていなかったキッドの顔がこちらを向いている。


(え……?でも、そんなハズは…)


戸惑っている柚希に気付かないのか、先程の驚きを隠したポーカーフェイスでキッドは話掛ける。


「それはそれは。こんな美しいお嬢さんに追って来て頂けるとは、至極光栄ですね。」


そう言って、丁寧且つ優雅な物腰でお辞儀をする。


「さてと、もう夜も遅い。そろそろお喋りは終わりにしましょうか。」


ニッと笑うと、無線を手にしたキッドが自ら警察を集め始める。


「あー、こちら茶木だが!杯戸シティホテル屋上に怪盗キッド発見!米花、杯戸町近辺をパトロール中の全車両および!米花町上空を飛行中の全ヘリ部隊に告ぐ…速やかに現場に直行し、怪盗キッドを拘束せよ!!」


(嘘、すごい…変声機とか使ってないのに)


柚希は、茶木警視に続いて中森警部の声で無線に喋っているキッドを見つめながら目を見開く。

コナンに見せてもらった様な、変声機などを使うなら兎も角、キッドは何も使わず他人の声を自在に真似ている。

柚希は無線を聞いた警察官たちが、次々と向かって来る気配を感じた。


「あなた、何する気なの?」


柚希の質問にキッドはニヤリと笑うだけ。


「動くなキッド!!」


バンッと勢いよく扉が開くと、拳銃を構えた刑事が現れた。


「これはこれは中森警部…お早いお着きで。」

「フン!お前の予告状はとうに解いて、ホテル内の人間を全て調べ、玄関口を固めていたんだよ!ここまでハンググライダーで飛んで来るとは思わなかったがな。」

「おや、その割には従業員でも宿泊客でもない人物が、2人も入って来れた様ですが?」


コナンと柚希に視線をやりながら、わざとらしく言うキッドに、中森は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「とにかく!もうお前に逃げ場はない。あの真珠は諦めるんだな…。」


そう言う中森の後ろにゾロゾロと警官たちが入ってくる。


「今夜はあなた方の出方を伺うただの下見…盗るつもりはありませんよ…。」

「なにっ?!」

「おや?ちゃんと予告状の冒頭に記したはずですよ…」


言いながらキッドの手が何かのスイッチに触れるのに、コナンが気付く。


「あ!待て!」

「キブシの花言葉は“待ち合わせ”と“出会い”…」


キッドは、コナンと柚希にそれぞれ順に視線を向けながら花言葉を告げる。


「そして…“嘘”ってね。」


手元のスイッチを押し、ハンググライダーを開くと、取り押さえようとする警官たちの目を閃光弾で眩ませる。


「お嬢さん。」


耳元で聞こえたキッドの声に、柚希はハッと振り返る。

「こんな夜更けに女性が1人で出歩くのは感心しませんね。帰り道はくれぐれもお気をつけて…。」

「あ、ちょっ…!」


光が収まった時には、キッドの姿は何処にも無く、1枚のカードだけが残されていた。


『4月17日
 横浜港から出航する
 Q・セリザベス号船上にて
 本物の漆黒の星(ブラックスター)
 いただきに参上する

      怪盗キッド』


そのカードの最後に張り付けられた薔薇の花を、柚希はじっと見つめていた。

update 2014.10.26
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