杯戸シティホテルから帰宅した柚希は、ベッドに座り一点を見つめたまま長い時間動かずにいた。
(何であの時……そんな訳ない、きっと気のせい!…………でも)
キッドと顔を合わせた時の事をぐるぐると考える。
(あの感じは、全く一緒だった……)
モノクル越しだが、目が合った瞬間に感じてしまった。
快斗と再会して目が合った時と全く同じ、“彼が快斗だ”という確信を。
−−女の子の一人暮らしなんて危ねーんだから、夜も出来るだけ出掛けるなよ?
−−こんな夜更けに女性が1人で出掛けるのは感心しませんね。くれぐれも帰り道にはお気をつけて…。
(……快斗)
jewel.13
〈消えない疑惑〉
「快斗、おはよー。」
登校中、後ろから掛けられた声に振り向くと、青子の姿があった。
「おー。」
「何回も呼んだのに気付かないんだもん。何か考え事でもしてたの?」
「え?あぁ、いや、何でもねーよ。」
青子にはそう言ったが、前を向いた快斗の顔は何でもないそれではなかった。
(あの後、俺が柚希を家まで送ろうと思ったのに……何であのガキが柚希の家まで付いてくんだよ。)
快斗は昨晩、キッドとしてあの場から消えた後、“予告状を解いて様子を見に来てみたら偶然会った”のを装って、柚希を家まで送り届けようとしていた。
しかし、快斗の姿に戻り柚希の所へ向かうと、コナンがずっと横に居て出て行けないまま、とうとう家までたどり着いてしまった。
(あいつが屋上に来た時だって…ガキのクセに柚希を呼び捨てにしやがって。一体どういう関係なんだ?)
考えても仕方のない事な上に、その場に居なかったはずの自分では柚希に直接聞く事も出来ない。
分かってはいても、もどかしさでいっぱいだった。
「あ、おはよう。快斗、青子。」
「おぅ、はよー。」
「おはよう柚希!」
快斗は、青子より先に自分の名前を呼ばれた事を、心の中で密かに喜びつつ席に着く。
「そういや、怪盗キッドの予告状解けたのか?今日が予告日なんだろ?」
「え?……あ、えっと、もう来たよ?」
一瞬何で、と快斗の顔を見つめてしまうが、あの場に居なかった快斗が知るはずないのを思い出し、自分の中でキッド=快斗が無意識に決定しかけている事に柚希は戸惑う。
「へ?もう来た?」
「そうそう!お父さんから聞いたけど、今回は下見で、改めて予告状を置いて行ったって!」
予告状の謎と昨日の事について、柚希が説明すると、素直にへぇーと感心する青子と違い、快斗は何か引っかかるような顔をしている。
「それ、昨日の帰りに気付いたのか?」
「うん、そうだけど…?」
「何で警察とか誰かに連絡しないで、1人でそこに行ったんだ?」
快斗が何を聞きたいのか分からなかったが、心配してくれたのかと気付くと嬉しくなる。
「キッドがどんな人か興味あったし、嘘って書いてあったから。」
昨日、新一に連絡しようかと思った時に気付いてやめていた。
「キブシの花言葉は、“待ち合わせ”、“出会い”、そして“嘘”なの。待ち合わせと出会いは、まぁ警察とかに対してふざけて合わせてるだけで、大した意味は無いだろうね。一つだけ違う意味を持ってる“嘘”が本来の意味だと思ったから、連絡しなくて良いと思ったの。」
(確かに最初の2つは特に意味を持たせて無かったけど…あのガキと、何よりオメーが来たから、偶然にも全部ピッタリはまっちまったよ…)
柚希の説明に、快斗は内心苦笑した。
「あ、青子のお父さんに挨拶しといたよ。」
「うん、聞いたよっ!」
ワイワイと楽しそうに話す2人を見ながら、快斗は考え込む。
(キッドの話を振った時の柚希の様子…まさか俺がキッドだと気付いた?……いや、まさかな。)
放課後、特に約束した訳でもないが、今日も自然と2人で帰る流れになり並んで歩いていた。
「ねぇ、快斗。」
「ん?」
「あのね………えっと…。」
言い出しにくそうにしている柚希に、快斗はキッドの事を聞かれるかと思い、ポーカーフェイスを意識する。
「どうした?」
「あの…………ょぅび…」
「え?」
ふと柚希の顔を見ると、これ以上ない位に真っ赤になっている。
「日曜日!ぃ…一緒に買い物行ってもらえないかなっ…?」
「へ?買い物?」
予想外の台詞に、快斗は思わず間の抜けた声を出す。
「家具とか生活用品とか、色々まだ揃ってなくて。その、実質的には荷物持ちみたいになっちゃうかもしれないけど、一緒に選べたら嬉しいなと思って…。あ、でも嫌だったら言ってくれれば大丈夫だから!」
真っ赤な顔をして、僅かに視線をずらしながら早口でそう言う柚希に、快斗は心臓に矢が刺さったかのような感覚を覚える。
「嫌な訳ねーよ!荷物持ちでも何でも大歓迎だぜ!」
そう言った快斗の顔は、柚希の大好きなニッという笑顔だった。
update 2014.10.28