「…何であなたがここで朝食を食べてるのよ?」
日曜の朝、呆れたような灰原の視線の先には、優雅に朝食を食べ始めている柚希の姿があった。
「哀、おはよう。ちゃんと哀と博士の分も作ってあるよ。」
「質問に答えてないわよ。…いただきます。」
文句を言いつつも食べ始める灰原に、柚希は嬉しそうに微笑んだ。
jewel.14
〈消えない疑惑 2〉
「何で3人揃って朝食なんか食ってんだよ?」
あの後、博士も揃って食べ始めた所にやってきたコナンは、呆れたように疑問を口にした。
「何、新一も食べたかった?私の手料理。」
「違ぇよ!何でオメーまで此処で食ってんだって事だろーが。」
「えー、また説明するの面倒くさい。」
「あのなぁ!」
柚希とコナンのやり取りに挟まれている灰原は、“また”の原因になっている事も気にせず、まるで聞こえないかの様に変わらず食べ続けている。
博士は3人を見回して困ったように口を開いた。
「まぁまぁ。柚希くんの家はまだ調理器具を揃えてないから、最近ちゃんとした食事が出来てないそうなんじゃよ。だから、わしが呼んだ用事のついでに一緒に食事する事にして、作ってもらったんじゃ。」
「へぇ。」
「美味しいわよ、柚希の料理。」
「バーロ、んな事よーく知ってるよ。」
やっと口を開いたと思うと自慢げにそう言う灰原に、コナンはジト目を向けた。
「お母さん達がアメリカに行ってからは、ずっと私が作ってたからね。」
「ま、工藤くんは料理なんて出来なそうだものね。」
「うるせぇよ。」
賑やかな食事も終わり、本来の用事である物を博士が持ってくる。
「新一くんに頼まれた、柚希くん用の発明品じゃ。」
そんな物を頼んでたのか、と柚希が隣を見ていると、博士がテーブルに2つの物を並べる。
「まずこのネックレスは、トップの石を一度押すと発信器のスイッチが入り、新一くんのメガネで追跡できるようになる。また1秒以上長く押すと、緊急のSOSが新一くんに届いた上で、発信器のスイッチも入る。」
「へぇ、これブレスレットにもなるんだ。」
嬉しそうに弄りながら言う柚希に、博士も満更ではなさそうな表情になる。
「目的としては手元にあった方が良いじゃろうが、学校の時はネックレスの方が見えにくいからのう。柚希くんの好きな方で使ってくれれば良い。」
「へぇ。博士にしては洒落たもん作ったな。」
「いや、流石にデザインは哀くんにお願いしたよ。」
喜んでいる柚希に、灰原も満足そうに微笑んでいる。
「博士、こっちの筒は何?」
柚希が指差したもう一つの発明品は、小さなボタンの付いた短い筒状のもので、見ただけでは何か分からない。
「そのスイッチを押しながら、空いてるスペースに向かって軽く振り下ろしてみれば分かるよ。」
−−ブンッ
「あ!凄い!」
言われた通りに振り下ろすと、一瞬で筒の長さが伸びた。
「名付けて“携帯ブレード”。持ち歩きやすいように軽くしておるから、竹刀とはちょっと感覚が違うじゃろうが、強度は十分ある。もう一度押すと元に戻るし、短いまま二度連続で押すと懐中電灯にもなるオマケつきじゃ!」
「うん、これなら護身用に最高だよ!」
広いスペースで試しに色々動き回っている柚希を見て、灰原はコナンに声をかける。
「あの子、剣道でもやってるの?」
「あぁ、昔ホームズに憧れて始めたんだ。多分、ある程度の大人でも敵なしなんじゃねーか?」
「なるほど。兄妹揃ってホームズフリークって訳ね。」
そう言って、ふと時計を見ると10時を回っている。
「柚希、あなた時間大丈夫なの?」
「え?…あ!そろそろ行かなくちゃ!」
時計を見て目を見開くと、慌ててブレードを小さくする。
そのまま鞄に入れようとするのを見て、博士がそれを止めた。
「鞄の中じゃ、いざという時すぐに出せないじゃろう。ベルトに付ける用と、足に巻きつける用の2種類のホルダーを作ったから、使いやすい方で持ち歩いたら良いぞ。」
「じゃあスカートだからこっち。」
足用のホルダーを受け取ると、おもむろにスカートを捲り上げ、太ももに巻きつけブレードを装着する。
「柚希!目の前でスカートなんか捲るんじゃねぇ!」
「えー、お兄ちゃんったら妹に欲情しちゃった?」
「バーロー!んな訳ねーだろ!恥じらいを持てって言ってんだよ!」
「ちゃんと持ってるよー。今は見られても大丈夫な人しか居ないんだから良いでしょ?」
「そういう事じゃねぇ!」
終わりの見えないやりとりに、灰原は小さくため息をつく。
「柚希、時間。」
「そうだった!博士、哀、ありがとね!」
「オメー、どっか出掛けんのか?」
「デート!!行ってきまーす!」
あっという間に出て行った柚希の残した言葉に、ドアの閉まる音が聞こえてからやっとコナンは反応する。
「デ……デートだぁ?!」
☆update 2014.11.01