薔薇と宝石の約束




(約束の15分前。良かった、間に合った。)


快斗との待ち合わせをしている、米花シティビルの前に着くと、時計を確認して一息つく。
自分から誘ったとはいえ、緊張する心を落ち着かせるのに、快斗より先に着いておきたかった為、安心する。


(新一には軽く言ったけど…やっぱりこれって“デート”になるんだよね…)


普段よりも若干気合いの入った自分の服を見つめると、足元の視界に人影が入ってきた。





jewel.15
〈消えない疑惑 3〉







(10分前か。柚希の事だからきっと早めに来てるんだろうな…)


米花シティビルの前に着いて時計を見た快斗は、柚希を探そうと辺りを見回す。


「だから、さっきから言ってるじゃないですか。私は待ち合わせしてるんです!」


(柚希の声?!)


声の聞こえた方を見ると、男2人の向こう側に顔は見えないが女の子の姿がある。


「だってそのお友達来ないじゃん。」

「まだ時間じゃないんだから当たり前でしょう?!」

「まぁいいじゃん。俺らが全部奢るからさー。」

「…いい加減にっ?!」


しつこい男達に流石にイラついて声を上げようとした所で、柚希の目の前に別の人物が割って入った。


「オメーら、この子に何か用?」

「快斗!」


自分の名前を呼び、後ろで服の裾をギュッと掴む柚希の様子に、快斗はよりいっそう強く男達を睨みつける。


「な、何だよ待ち合わせって男かよ。」

「早く言えよな!」


そう言い残して2人とも足早に去っていく。


「最初に言ったってば…。」


快斗の服を掴んだまま、覗き込むように男達の後ろ姿を見る柚希は、ぽつりとそう零した。


「大丈夫だったか?」

「う、うん!ありがとう、助かったよ。」


顔だけ振り向いて聞いてくる快斗に、まだ服を掴んだままなのを思い出し、慌てて手を放す。


「もっと早く来れば良かったな、悪ぃ。」

「そんな事ないよ!充分時間前なんだし。」


そう言って、お互いの姿を改めて見ると、同時に視線を逸らす。



(やべぇ、柚希の私服姿…可愛いすぎ!)
(やばい、快斗の私服姿…格好良すぎ!)



まさか同じ事を考えているなど露ほども思っていない2人は、赤くなる顔を押さえるのに必死でお互いのそれには全く気付かなかった。










チェストや本棚等の家具は宅配便で送ってもらう手続きをして、調理器具を一通り買い込み、2人は雑貨店に移動しようと歩いていた。


「ごめんね、本当に荷物持ちになっちゃって。」

「良いって良いって!色々選ぶのに両手が空いてた方が良いだろ?」


まだまだ持てるしな、と言いながら両手を上げてみせる。


「ありがとう。」


笑顔になった柚希に快斗も満足そうに笑う。



そうして少し歩き、シネマロビーの入り口を通り掛かった時、沢山貼られたポスターの中の“4月17日公開!”の文字が柚希の目に止まった。


(4月17日……キッドの予告日…。)


「…快斗。」

「どうした?」

「…あの映画。ずっと気になってたんだけど、来週一緒に観に行かない?」


一瞬考え込むように目を閉じた後、恐る恐る快斗に声を掛けた。


(快斗がキッドなら、その日は映画なんて行けない。もし断られたら可能性がまた高くなる…)


今日の買い物に誘った時とは違う緊張感が柚希を襲う。


「あー、悪い。来週は予定があるんだ…。また別の日って事で。」

「っ!……そっか。大丈夫だよ!映画はしばらくやってるんだし、今日買った家具も早めに組み立てなきゃいけないし。」


快斗の答えに動揺したのを悟られないように、柚希は慌てて誤魔化す。


「悪いな…。そういや、その家具が届くの来週末って言ってたよな?」

「うん。」

「再来週、学校の後で良ければ組み立て手伝うぜ。いくつかあるし一人じゃ大変だろ?」


柚希は、今日買った組み立てる物を頭に浮かべると、快斗の申し入れに素直に甘える事にする。


「じゃあお願いしちゃおうかな。お礼に夕ご飯食べて行ってね。」

「マジ?!すげー嬉しいんだけど!」


こんなに喜んでくれるなら作りがいがあるな、と思いながら上機嫌な快斗を見つめる。


(そうだよ、まだ快斗がキッドだと決まった訳じゃない。考え過ぎないようにしなきゃ…)






買い物を一通り済ませた2人は、ベンチで飲み物を飲みながら一休みする事にした。


「これで一通り揃ったよ、ありがとう!」

「いーって!俺も柚希と出掛けられて楽しかったしな。」


ニッと笑う快斗に赤くなるのを隠す為に柚希が顔を少し反らすと、大きな時計が目に入る。


「ねぇ快斗。あれ、ちょっとバランス悪いけど、ひらがなの“く”だよ。」

「ん?あぁ、本当だ。」


柚希が指差した方を見ると、5時5分を示した時計の針が、長さは不釣り合いだが確かに“く”の形になっている。


「なるほど、じゃあ3時は“L”で長さもピッタリだな。“I”はつまんねぇし…。」

「そうだね。………あ、7時20分!」

「7時20分?…そうか“へ”か!」

「あたりっ!」


些細な事で笑い合う時間をしばらく過ごしてから、ようやく2人は帰路についた。

update 2014.11.05
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