もし本当に快斗がキッドだとしたら……私は一体どうしたいの?
jewel.17
〈迷いと自覚 2〉
「今夜は特別な趣向が凝らしてあります。」
そう言って園子の母、鈴木朋子がパーティー客に配った“
漆黒の星”の模造品の説明を始めた。
(へぇ。これだけ大量の模造品を作るなんて、流石としか言えないなぁ。)
自分の分を胸元に着けながら、柚希は周りを見渡す。
「キッドに見せつけてやるのです!盗れるものなら盗ってみなさいとね!もちろん…船が洋上にいる3時間の間に、どれが本物か彼に判別できたらの話ですが…。」
朋子の言葉に会場は笑いに包まれる。
(確かに、何のヒントも無しにこの数の中から本物を見つけ出すのは容易じゃない。だけど……正直、園子のお母さんが本物を託す人なんて、1人しか思い浮かばないんだけど。)
そんな事を考えていると、周りをキョロキョロしている園子に、蘭が声を掛けるのが聞こえる。
「園子?」
「見当たらないのよ、姉キの姿が…。」
「もしかして、時間を間違えたとか?」
「まさか、まだ家に…。」
柚希の言葉に、園子は念の為家の電話に掛けてみる。
「……それはこっちのセリフ!今何時だと思ってんの?」
(本当に家に居た…)
冗談で言ったつもりが、その通りだった事に少なからず驚き、同時に呆れてしまう。
「え?パパそこにいるの?」
「?!」
園子の声に反応したコナンと柚希は、さっきまで居た会長の姿を探すが既に会場内から消えている。
トイレに行ったのを近くの人から聞き、2人同時に走り出した。
−−バンッ
コナンがトイレのドアを勢いよく開ける様子を、柚希は一応女だし、とトイレの外で見つめる。
「新一?」
「会長の服と変装道具だ。奴は確実にこの船に居るぞ。」
「…中森警部を呼んで来る。」
柚希が走って行くと、コナンはもう一度見つけた変装道具に視線を戻す。
(怪盗キッド…必ずその不敵な仮面を剥ぎ取ってやる。そして、柚希が隠してる真実を聞かせてもらうからな。)
「えぇっ!キッドがもう船の中に?!」
「うん、トイレで園子のお父さんの服と変装道具が見つかって、今警察が調べてるよ。」
チラッとコナンの方を見ると、朋子と小五郎に同じく説明している。
「しかしですなー奥さん。この500人を超える人が皆身に着けている、精巧な偽物の中の、どれが本物か教えていただかないと守りようが…。」
お手上げといった様子の小五郎に朋子は、よく見れば精巧な模造品の中にも失敗作が混ざっている為、ある程度数は絞れると言う。
「中には私が着けている様な光沢が鈍くて冴えないものや、あなたが着けている様な輝きすぎて安っぽいものも混ざってますので。」
(光沢がない…?そういえば……)
朋子の言葉に引っかかった柚希は、園子を振り返る。
「ねえ園子。
漆黒の星って、何年前に手に入れたものか分かる?」
「んー、詳しくは知らないけど、何十年も前って言ってたと思うわよ。」
「なるほどね。」
口元に小さな笑みを浮かべた柚希が再び視線を戻すと、朋子が小五郎に“とっておきのヒント”を出そうとしていた。
「60年前、祖父を魅了したあのピーコックグリーンの光沢をもつ黒真珠に、最も相応しい方にお預けしてあります。…偶然にも、それに値する人物はたったの1人だけ…。」
(ふーん。じゃあ乗客名簿を見れば分かるって訳ね。まぁ、見るまでもないけど。)
出されたヒントに内心納得すると、柚希はコナンの横にしゃがむ。
「新一。蘭が私達を探しに行って戻ってないみたいだから、ちょっと見てくるね。」
「あぁ、頼む。」
蘭を探しに会場を出ると、キッドを捕まえる為に集まった刑事達でごった返している。
−−何か気づいた事があったら、いつでも教えてくれ。
歩いていると、ふと中森に言われた事を思い出す。
(本物の
漆黒の星を誰が持っているかは分かってるんだから、教えるべきなのかもしれない。……でもそれは、キッドが捕まる可能性が高くなるって事。)
無意識に歩く足は止まり、廊下の端で考え込む。
(キッドは怪盗、犯罪者…捕まえるべきなのは分かってる。でも素直にそう思えないのは何で?……快斗が、もし本当にキッドだったら…私はどうしたいの?)
「柚希!」
「!!」
突然呼ばれた声にハッと我に帰ると、目の前に心配そうな顔をした蘭が立っていた。
「大丈夫?具合でも悪いの?」
「考え事してただけだから大丈夫!コナン君ももう戻ってるから、会場に戻ろ?」
「あ、うん。」
さっさと歩き出す柚希を不思議そうに見ながら、蘭はその後を追った。
update 2014.11.08