会場まで歩く柚希の後ろを、蘭に変装した快斗がついて行く。
(会長挨拶の時には見間違いかと思ったけど、本当に柚希が来てるとは…。この前映画に誘われたから、てっきりこのパーティーには来ないと思ってたのに、どういう事なんだ?)
考えながら、前を歩く柚希の後ろ姿を見つめる。
(もしかして…俺がキッドかもしれないと思って、わざとこの日に誘って試したのか?)
jewel.18
〈迷いと自覚 3〉
「…にしても蘭のやつ遅えな。」
会場では小五郎が以前事件で知り合った人達と話を終えて、蘭がまだいない事に気付いた所だった。
「さっき柚希ねーちゃんが探しに行ったから大丈夫だと思うよ。」
「きっとどっかで迷ってるんですよ…蘭って方向オンチだから…。」
「どーせ方向オンチですよ!」
突然現れた蘭に聞かれていた事に、園子は少し気まずそうにする。
「でもこの船広すぎだよ。方向オンチじゃなくても迷うって。」
「えー、警視庁の茶木です。」
柚希の言葉にかぶるように、マイクから茶木の声が響く。
「もう耳にされた方もおられると思いますが、あの忌ま忌ましい悪党が本船に侵入した様です。」
(悪党、ね……。)
柚希は複雑な気持ちで茶木の言葉を聞く。
「ご存知の通り奴は変装の達人。なりすます相手の事をあらかじめ調べ上げ、顔はおろか声や性格まで、完全に模写してしまう…常識では計れない悪才の持ち主です!もしかしたらすでに奴は、あなた方の中に混ざっているかもしれません!」
会場内は、周りにいる人をキッドかもしれないのかと見渡しながらざわつく。
「本来なら1人1人、入念に調べ上げる所ですが、今回はそんな無粋なマネは避けましょう。……“合い言葉”です!そばに居る方とペアを組んで、2人だけの合い言葉を決めて下さい!」
(なるほど、それでキッドが変装相手を変えるのを防ぐ訳か。)
「柚希、合い言葉何にする?」
隣にいた蘭に聞かれ、柚希は少し考える。
「んー……私は“薔薇”にする。」
「じゃあ私は“宝石”にするわね。」
「…え?」
「あれ、駄目だった?」
蘭の言葉にあからさまに驚く柚希に、蘭は不思議そうに聞いた。
「あ……いや、そうだね、合い言葉って言うとどうしても対比して連想する物とかにしがちだから、“関係ないもの”の方が良いかもね。」
(…やっべぇー、柚希に薔薇って言われて、ついあの約束から宝石を連想しちまった。本当に納得してくれてれば良いけど…)
蘭に微妙な視線を向けてくる柚希に、快斗は内心焦りつつもポーカーフェイスで蘭になりきる。
「さすがにそこまでは考えてなかったけど、それなら良かっ…」
突然照明が落ちて真っ暗になり、高らかな笑い声が聞こえてくる。
プシューという音と共に煙幕の中から現れスポットライトに照らされた姿に、誰かが叫ぶ。
「怪盗キッド?!」
「フフフ…合い言葉なんて無駄ですよ。すでに
漆黒の星は私の手の中だ。」
「えぇっ?嘘、もう盗られちゃったの?!」
キッドの言葉に、蘭が小さめの声で柚希に聞いてくる。
「…大丈夫。あれはキッドじゃないから。」
「え?」
「格好だけ真似してたって、“彼”とは全然違う。」
ライトに照らされるキッドを真っ直ぐ見つめたままそう言う柚希に、蘭は目を見開く。
そんな2人から僅かに離れた場所で、朋子はハンドバックに手を入れる。
「おやおや、困った泥棒さんだ事…。ああいうイタズラボウズには、お仕置きしてあげなくちゃ。」
そう言って手に握った拳銃を、キッドに向けて躊躇いなく発砲した。
−−ドサッ!!
数発の弾に打ち抜かれたキッドがテーブルの上に落ちると、血を流したその姿に客達は悲鳴をあげる。
「っ!!」
同じくその様子を見た柚希は思わず息を飲んだ。
ドクドクと早くなる鼓動が全身に響く。
(偽物なのは分かってるのに…!)
震えそうになるのを押さえる様に、強く両腕を抱える。
「柚希?大丈夫?」
柚希の様子に気付いた蘭が、優しく肩に手を置きながら声を掛けると、ハッとして蘭を見る。
「あ……だ、大丈夫。ごめんね…。」
「本当に?少し休んだ方が良いんじゃない?隅に座る所あるから…。」
朋子が、マジシャンの真田一三が扮したキッドの余興だと種明かしする中、柚希は蘭に連れられ壁際のイスに座らされる。
「ありがとう。少し此処に居るから、蘭は戻ってて。」
「でも…。」
柚希を1人にするのに渋った蘭も、柚希にもう一度大丈夫と言われ、園子達の方へ戻って行く。
(参ったな…まだ少し震えてる。あんなにハッキリ偽物だと分かったのに、もしあれが快斗だったらって考えただけでこんなに怖いなんて……。とっくに答えは出てたのかもしれないな。)
見つめていた手の平を、ギュッと強く握り締める。
(もし快斗がキッドだったら……私は、彼を“守りたい”。)
update 2014.11.11