蘭が園子の元に戻ると、真田がカードマジックを始める所だった。
「あれ蘭、柚希は?」
「ちょっと疲れちゃったみたい。今はイスで休んでる…」
−−バサバサッ
何かが落ちる音に2人が横を見ると、園子の姉の婚約者である富沢が、仕掛けがないのを確かめる為に切っていたカードを落としてしまっていた。
「す、すみません。」
「いえいえ…。カードを落としたぐらいじゃ、私のツキは落ちませんから。」
「!?」
蘭と園子で拾うのを手伝っていると、真田が富沢に言った言葉にコナンが反応する。
(ツキ…?もしかして…)
何かに気付いたコナンは、小五郎から乗客リストを借り、その場に座り込んで調べ始める。
(なるほど…。だから奴は二度目の予告状であんな事を。)
本物の
漆黒の星の持ち主や、キッドの狙いが分かったコナンは、ニヤッと笑うと真田の方に視線を戻した。
「鳩…ハト…ハート……。じゃあハートのA(エース)という事で!」
ポンッと音を立てて出てきた鳩から連想させ、引くカードを予想した真田は、蘭に好きなカードを選ばせる。
そして手に取ったカードを裏返すと、そこに書いてあるのはトランプの絵柄ではなく、キッドからのメッセージだった。
jewel.19
〈迷いと自覚 4〉
『クレオパトラに
魅了された
シーザーのごとく
私はもう
貴方のそばに…
怪盗キッド』
「皆さん落ち着いて!合い言葉の確認を!」
キッドからのメッセージに騒然となる会場を落ち着かせようと、茶木は声をあげる。
「蘭。」
そんな中声を掛けられた蘭が振り返ると、休んでいたはずの柚希が立っていた。
「柚希、もう大丈夫なの?」
「うん、心配させてごめんね。…ちょっと来てもらって良い?」
「え?」
返事をする前に腕を掴んで歩き出す柚希に戸惑いつつ、蘭は後を付いていく。
人混みを抜け、先程まで柚希が休んでいたイスの所まで来ると、周りに人が居ないのをチラッと確認した後、柚希は話しだす。
「こんな時にする話じゃないけど、今日はもうゆっくり話す時間がなさそうだから。蘭に報告しておく事があるの。」
「報告?」
「うん。あのね…。」
一瞬言いづらそうにしてから、蘭の目を真っ直ぐ見る。
「再会出来たの!新しい学校で。」
「え?……もしかして、“バラの男の子”?!」
「う、うん。」
「昔、薔薇とネックレスを交換した男の子でしょ?良かったじゃない柚希!!」
笑顔でそう言う蘭に、柚希は顔を曇らせる。
(昔、“かいとくん”の名前は自分の中に独り占めしたくて、新一や蘭達に話す時には薔薇の花をくれた“バラの男の子”という名詞で呼んで、周りもそれで認識してた。だけど…)
「柚希?」
「あなたがキッドだったんだね…。」
「?!」
ポツリと言った言葉に蘭は目を見開く。
「何言ってるのよ、そんな訳ないじゃない。」
「蘭は…蘭だけは、“バラの男の子”って言い方をしないの。」
「え?」
「それに……あの場に居た私とお母さんしか知らない事を知ってた。つまりあなたはっ!!」
不意に唇に人差し指を当てられ、言葉が詰まる。
「まさか、あなたに私がキッドだと見抜かれるとは。お見逸れ致しました、柚希嬢。」
いつか聞いた気障な口調と声に、柚希は自分の言った事が事実だと再確認させられる。
「私を捕まえますか?」
「……ううん。あなたを捕まえたいとは思ってない。」
自嘲ぎみな言い方での問いを否定されたキッドは、僅かに驚いた顔をする。
「さっき、偽物のあなたが撃たれた姿を見て分かった。あなたが……あなたの正体が、私が考えてる人なら…私はあなたを守りたいの。」
「…柚希嬢。あなたが考える私の正体が誰かは分かりませんが……たとえそれが正解でも、あなたにそれを明かす事は出来ません。ただ、私を守りたいという言葉だけは、有り難く受け取らせて頂きます。それと、気分が優れないのは本当なのでしょう?無理はなさらないように。」
そう言っていつの間にか手にしていた水の入ったグラスを差し出してから、再び人混みへ戻ろうとするキッドに、柚希は静かに声をかける。
「彼はもう気付いてると思う。…気を付けて。」
「ありがとう。」
僅かに振り向いて言った言葉は、すでに蘭の声に戻っていた。
update 2014.11.14