薔薇と宝石の約束




キッドからのメッセージカードによって動揺した乗客達は、落ち着きなくガヤガヤと騒ぎ続けていた。


「この部屋の出入口を固めろ!誰1人外に出すな!」


会場の外に出たがる客も出てきて、中森が部下に指示を出す。
それを横目に園子の元に戻った蘭は、そっと園子の肩を叩いた。


「柚希、まだ調子が戻らないからもう少し休んでるって。」

「そっか。…って、ちょっと蘭!胸の真珠どこ行ったの?」

「え?」


園子に言われて胸元を見ると、さっきまで着けていた真珠が無くなっていた。
周りを見渡して転がる真珠を見つけると、近くにいる人に拾ってもらうように声をかける。


−−プシュゥー!!


男性が拾おうとした途端に、真珠が音を立てて煙を出し、やがてパァンという音と共に破裂する。

その音に気付いた人達がざわつき始めると、その足元に転がってきたいくつもの真珠が次々と破裂していく。


「こんな真珠着けてられるかっ!」

「冗談じゃないわ!」


パニックになった乗客達は自分の真珠を投げ捨て、警察の制止も聞かず外に出ようと扉に押し寄せる。


「きゃっ!」

「ママっ!」


人の波に押された朋子は、バランスを崩して躓き、床に倒れてしまった。


「大丈夫ですか?」

「あ、ゴメンなさいね、蘭ちゃん。」


園子が駆け寄った時には、すぐ側にいた蘭が朋子を支えていた。
そして園子が異変に気付いた時、それを見ていたコナンの顔は、不敵な笑みを見せていた。





jewel.20
〈迷いと自覚 5〉







「あれ?ママのも無くなってるわよ、黒真珠…。」

「え?」


園子の言葉に胸元を確認すると、朋子は目を見開き叫び声をあげる。


「キッドよ!キッドに漆黒の星(ブラックスター)を盗まれましたわ!!」

「なにぃ?!じゃあ、奥さんが着けていたのが本物の漆黒の星だったのか…。」


中森が事態に気付いた時、押し寄せた人を制止しきれずに、刑事を押し倒しながら開いた扉から一気に人混みが流れ出る。


「逃がすな!今外に出たやつがキッドだ!!」

「蘭ねーちゃん、僕らも捕まえに行こう!」


中森達に続くように蘭の手を取って走り出すコナンに、蘭は戸惑う。


「分かったんだ!怪盗キッドの正体が!」

「えぇー?!」










「ちょっとコナンくん?ここ機関室じゃない。こんな所にキッドがいるの?」


コナンに手を引かれてたどり着いた場所に、蘭は怪訝そうな顔で訪ねる。


「蘭ねーちゃん、宝石言葉って知ってる?」

「宝石言葉?」


不思議そうな蘭に構わず、サッカーボールでリフティングをしながらコナンは話し出す。


「園子ねーちゃんの母さんがヒントをくれたんだ。本物の漆黒の星(ブラックスター)は最も相応しい人に預けてあるって。真珠の宝石言葉は“月”と“女性”で、この船に乗ってる人でそれに当てはまるのは『鈴木朋子』さんだけ。つまり本物は、あの人本人が持っていたんだよ。」

「へー……。でもそれで、何でキッドの正体が分かるの?」

「カードだよ。真田さんのマジックで蘭ねーちゃんの引いたカードに、キッドからのメッセージが貼ってあったでしょ?」

「う、うん…」

「あのマジックは、鳩に注意を引き付けてる間にカードを全部すり替えるトリック。だから、その前に誰がどう切っても引くカードは決まってるんだよ。」


コナンの説明に、蘭は少し考える仕草を見せてから話し出す。


「じゃあ、そのカードに貼ってあったって事は、マジシャンの真田さんがキッド…?」

「違うよ。ボクずーっと見てたけど、あの人は奥さんに近付いてないから。」

「じゃあ誰なのよ?」

「もう1人いるじゃない…カードをすり替えられる人が。そう、その人物は床にバラまかれたカードを拾うふりをしてカードを1枚抜き、メッセージを貼り付けた…。それを手の平に忍ばせて、カードの束から引いたように見せかけたんだ。」


そう言った所で、コナンはリフティングしていたボールを足元で止める。


「だよね?蘭ねーちゃん……いや………怪盗キッドさんよぉ!!」


先程までとは打って変わり、子供らしさの欠片もない自信たっぷりな様子で言うコナンの後ろで、蘭は目を見開く。


「お前が蘭とすり替わったのは、蘭が俺と柚希を探しに会場を出た時……見事だぜ、全く気付かなかったよ…。」

「……。」

「例のメッセージと破裂する真珠で乗客をパニックに陥れたお前は、その混乱に乗じて本物の漆黒の星(ブラックスター)を奪い取ったんだ。奥さんの体を支えた時にな。」


迷いなく語るコナンに、蘭は苦笑しながらそれを否定する。


「や、やーねー冗談はやめてよコナンくん。私ヒント聞いてないし、どれが本物か知らなかったよ?」

「ヒント無しでもお前には分かったはずだ。指の脂で劣化するようなデリケートな物を他人に預ける訳がないし、加えて真珠の光沢寿命はせいぜい数十年。漆黒の星(ブラックスター)が60年前に購入されたのを考えると、色褪せた真珠を手袋で大事そうに扱う奥さんの姿を見れば、本物なのは一目瞭然ってわけだ!」


核心を突くコナンの言葉に、蘭の額には僅かな汗が滲んでいた。

update 2014.11.17
MAIN  小説TOP  HOME