薔薇と宝石の約束




「わ、分かったわ。そんなに疑うなら、電話で警察の人を…」


言いながら船の内線電話に蘭が手をかけると、ものすごい勢いで飛んできたサッカーボールが電話機を破壊する。


「……。」

「ビルの屋上と同じ手は遣わせねーよ。警官に紛れて逃げようとしたんだろうが、この場に人を呼ぶなんて野暮なマネは無しだぜ?……優れた芸術家のほとんどは死んでから名を馳せる…。」


ボールに足を乗せ、コナンは不敵に笑う。


「お前を巨匠にしてやるよ……監獄という墓場に入れてな!」





jewel.21
〈迷いと自覚 6〉







「フ…参ったよ、降参だ……。この真珠は諦める。」


両手を上げ、キッドの声に戻ってそう言うと、真珠をハンカチごとコナンに投げる。


「奥さんに伝えてくれ。パーティーを台無しにして悪かったってな。」

「何を今更…。それよりお前……アイツとどういう関係だ?」

「アイツ…?」


鋭い目で睨んでくるコナンに、キッドは誰の事か考える。


「とぼけんじゃねぇ、柚希だよ!この前ビルの屋上で、去り際に何か言ってただろ。今日だってずっと側にくっつきやがって…。」

「あぁ、あの時が初対面なのは本当だぜ?あえて関係と言うなら…俺があの子を気に入った、って事くらいだな。」


心のなかで“キッドとしてはな…”と付け加えながら、こちらを睨んでくるコナンを見て口元に笑みを浮かべる。


「てめぇ……。」

「あぁでも案外、あの子の方も、俺に興味持ってくれてるかもしれねぇな。」

「何だと?!」

「あのマジシャンが扮したキッド……あの子はすぐに、偽物だって気付いてくれたぜ?」


その言葉にコナンは目を見開く。


「……柚希に手出したら許さねぇからな!」

「さぁ?それは保証できねぇな。あ、そうそう、この服借りて救命ボートで眠ってる女の子、早く行ってやらないと風邪ひいちまうぜ?」


散々挑発する事を言った後、ふと思い出したようにそう言うキッドに、コナンは訝しそうな顔をする。


「俺は完璧主義者なんでね!」

「なっ?!」


ウインクしながら服の中から下着を見せると、コナンは蘭の状態を想像して思わず赤くなる。


−−−−カッ!!

「……眠り姫は1人じゃないぜ。」


その隙に閃光弾を放つと、コナンの目が眩んでいる内にキッドは姿を消す。


「くそっ!逃がすか!!」


すぐに追いかけようとしたコナンだが、さっきまでキッドが居た場所にヒラヒラと落ちるドレスと下着を見て足を止めて考える。


「あんにゃろー!覚えてろよ!!」


悪態をつきながら服を抱えてデッキに向かって走ると、丁度キッドを探していた刑事たちが蘭を見つけて、救命ボートから出そうとしていた。


「あー!!!ちょっと待ったぁ!!!」


制止の声を上げながら必死に駆け寄るが、デッキに移された蘭がドレスを身に纏っているのを見て、ぽかんとした様子で自分の腕の中の服を見返す。


「ん?」


そして蘭の胸元に残されたキッドからのメッセージカードで、クリーニング屋に扮したキッドが事前に同じものを用意していたのに気付く。


「ヤロォ……。」










少しして目を覚ました蘭と共にパーティー会場へ戻り、園子や小五郎を見つけて近付くと、気付いた園子が駆け寄ってくる。


「蘭!大丈夫だったの?」

「うん。急に眠らされて何も分からなかったし。」


苦笑して園子に答える蘭の横で、コナンは辺りをキョロキョロと見回す。


「ね、ねぇ園子ねーちゃん!柚希ねーちゃんは?!」

「え?そう言えばしばらく見てないわね…。」



−−−眠り姫は1人じゃないぜ



「!!」


去り際にキッドが言った言葉を思い出し、慌てて近くの刑事に声をかける。


「ねえ!騒ぎの前からあそこのイスで休んでた人知らない?!」

「あぁ、あの子なら少し前に別室に運ばれたよ。」

「運ばれた?」


その刑事に教えてもらった客室へコナンは走り出す。


「柚希っ!」


勢い良く開け放ったドアの先には、ベッドで眠っている柚希の姿があった。


「睡眠薬入りの水を飲まされたみたいだが、量も少ないからその内目を覚ますそうだ。」


柚希に気を取られて他に人が居るのに気付かなかったコナンは、驚いて声の主を見る。


「迎えが来たなら俺は戻る。まだまだやる事があるからな。」

「中森警部がどうして、わざわざ柚希ねーちゃんに…?」

「娘の大事な友達なんだよ。付き添い位するさ。」


そう言って部屋を出た中森を見送ると、寝ている柚希に近付きそっと頭を撫でる。


「ったく、心配させんじゃねぇよ。あんな奴に大事な妹を渡せるかっつの。………お前には“バラの男の子”が居るだろ?」

update 2014.11.17
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