薔薇と宝石の約束




jewel.22
〈迷いと自覚 7〉







「…………かな?」

「……だろ…。」

「でも……ぐに起きるっ………のに。」


意識の端で、かすかに話し声が聞こえるのを感じて、柚希は目をゆっくりと開く。


「きっと疲れが溜まってたんだろ。」

「………ぁれ?…ここ」

「!!」


小さく聞こえた柚希の声に、蘭とコナンが反応する。


「柚希、目が覚めたのね!」

「気分悪くない?」


助手席から覗いてくる2人の姿に、やっと自分が車の後部座席に寝かされている事に気付く。


「あ、大丈夫…。えっと…パーティーは?」

漆黒の星(ブラックスター)は戻ってきて、その後警察の人が調べたけど、見つかったのはハンググライダーだけで、キッドは居なかったよ。柚希ねーちゃんはキッドに睡眠薬入りの水を飲まされて眠ってたんだ。」


蘭に抱えられ座っていた助手席から、後部座席の方へ移ったコナンがそう説明する。


「そっか…。きっとあの時、蘭に変装した彼に“あなたがキッドでしょ”って言ったからだね。」

「柚希ねーちゃん分かってたの?!」


子供っぽい言い方とは裏腹に、何で言わなかったんだと責めるような視線に、柚希は小さくため息をつく。


「話してたら、蘭が言わないような事を言ったりしたからね。その時に水を飲まされたから、誰かに言う暇も無かったよ…。」

「まぁとにかく、明日までゆっくり休んだ方が良い。睡眠薬がやけに効いてたみたいだから、きっと引っ越しやら転入やらで疲れてるんだろ。」


柚希の家の前に車を止めると、小五郎が優しい口調で言う。


「おじさん、ありがとうございます。」


車を降りると、ふと思い出したように振り返る。


「蘭、ちょっとだけ良い?」


蘭に一度降りてもらって、声が聞こえない程度に車から離れる。


「どうしたの?」

「蘭には言っておきたくて。…転入先の学校でね、再会出来たの。」

「再会って……まさか、一目惚れした王子様?!」

「うん!しかも隣の席で、私のこと覚えてくれてたの!」

「えー!良かったじゃない!!何か進展があったらすぐに教えてよ?」

「もちろん!」


一緒になって喜んでくれる蘭に、柚希は嬉しくなる。

3人の乗る車を見送ると、家の玄関に向かいながら、コナンにメールを打った。


『後でちゃんと連絡するから、そんな怖い顔しないで。蘭が心配するよ?』

(あんなに睨む事ないのに…)


去り際のコナンの表情を思い出し、柚希は思わずため息が出た。
部屋に入り着替えてベッドに座ると、さっきの蘭の言葉が浮かぶ。



−−まさか、一目惚れした王子様?!



(蘭だけは、“バラの男の子”じゃなくて“王子様”って言うんだよ、キッド…。それに、ネックレスをあげた事を知ってるのは、あの場に居た人だけ……。)


「やっぱり彼は…………あれ?」


−−見つかったのはハンググライダーだけで、キッドは居なかったよ。


(中森警部が空の部隊を用意しない訳がないし、新一からは上手く逃げたとしてもどうやって船から…………って、まさか…)


ふと思い出したコナンの言葉に、キッドがどう船から逃げたか考えるが、行き着いた可能性に戸惑う。
一瞬考えてから、柚希は携帯を手に取った。










「ひーっくしゅん!」

「大丈夫ですか?快斗ぼっちゃま…。」

「さすがに泳ぐのはキツかったよ…。ったく、あのガキのせいで。」


ハンググライダーで逃げられなくなった快斗は、仕方なく海を泳ぎ、港近くに迎えに来ていた寺井の車で帰宅している所だった。


−−ピロリン


「ん?」


メールの着信音が聞こえて携帯を開くと、快斗は目を見開く。


『今夜は冷えるから、暖かくして風邪ひかない様にしてね。また明日学校で。』


柚希からのメールをしばらく見つめた後、隣の寺井に顔を向ける。


「なぁジイちゃん、今夜って寒いか?」

「いえ、ここ最近では暖かい方かと…。」

(て事はやっぱり、泳いで逃げるしかなかったのを分かっててのメールだよな……)


パーティーの時、キッドに柚希が言った言葉を思い出す。
遮りはしたものの、言おうとしていた事は明らかだった。


「やっぱ、俺がキッドだって気付いたよなぁ……。」

「もしや、例の柚希さんですか?」

「あぁ、ちょっとボロ出しちまってさ。でも肯定はしてねぇし、一応誤魔化したつもりだったんだけどな。俺を守りたいって言ってくれたのはすげぇ嬉しかったけど、巻き込む訳にいかねぇよ……。」


携帯の画面を見ながら頭をガシガシとかいている快斗を横目に、寺井はフッと優しく笑う。


「私はその方なら、全てお話しても良いと思いますよ。」

「何言ってんだよジイちゃん!そんな事したら柚希を危険な目に…」

「“守りたい”と仰ってくれたのでしょう?つまり、それなりの覚悟をお持ちだと言う事。それに、全てを知らなければ守れない部分もあります。盗一様と千景様の様に、全て分かった上で支え合う人も必要だと、私は思いますよ。」

「………。」


その言葉に考え込む快斗に、寺井は再び微笑んだ。

update 2014.11.22
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