−−−ガチャガチャッ
玄関の方から聞こえる、明らかに鍵を開ける音に柚希は慌てて残りの階段を降りる。
「たっだいまー!……って、あら?」
大きな声と同時に開いたドアから入ってきた人物は、階段のある廊下から現れた柚希を見て目を丸くする。
「あの、お邪魔してます。私、快斗君とクラスメイトの工藤と言います。」
「…もしかして、快斗の彼女?」
遠慮がちにあいさつした柚希を見て、少し嬉しそうな顔でそう言うと、柚希は顔を真っ赤にする。
「い、いえっ違います!私、まだ転入してきたばかりなので、快斗君に色々良くしてもらって助かってます。」
赤い顔を隠すかのように大きくお辞儀をする柚希に笑みを深くし、フフッと笑う。
「そうなの?あ、私は快斗の母の千景よ、よろしくね。そういえば快斗は部屋?」
「あ、実は…」
jewel.24
〈秘密だらけの相関図 2〉
「ん……………………っ?!」
ベッドの上で目を覚ました快斗は、開ききらない目で辺りをゆっくり見回し、少し顔を上げた所で、驚いて言葉を失った。
「あら、快斗起きたの?」
「母さん?!つーか……な、何で柚希がここで寝てんの?」
ノックもなしに入って来た、居ないはずの母に驚きつつも、一番驚いているのは自分の寝ているベッドにうつ伏せて床に座りながら寝ている柚希の姿だった。
「何でって、あなた覚えてないの?学校から連れて帰って来てから柚希ちゃん、ずっと看病してくれてたんだからね。」
美園に言われて学校を早退し、柚希と帰路についたのは覚えているが、その後の記憶があやふやで、快斗は寝ている柚希を見つめると、思わず頭を優しく撫でる。
「良かったじゃない、柚希ちゃんと再会出来て。」
「なっ!?」
柚希の頭に手を乗せたまま千景を見て驚いている快斗に、千景は得意気な顔をする。
「盗一から全部聞いてるんだから!昔、一目惚れしちゃった子なんでしょ?」
「お、おい変な事言うなよ!柚希が起きちまったら……てか、既に何か言ってねぇだろうな?」
「さぁねー。」
「おい!」
千景は満足いくまで快斗をからかうと、ふと真面目な顔になる。
「快斗。柚希ちゃんは“知ってる”の?」
「…言ってはいない。けど……多分気付いてる。」
柚希に視線を戻しながら快斗は答える。
「そう。…きっと待ってるわよ、あなたが話してくれるのを。」
「話せる訳ねぇだろ、こいつを危険な事に巻き込むなんて、俺は嫌だ。」
「ねぇ快斗。この子は本当にあなたの事を考えてくれてるし、芯のとても強い子だと思うの。心の底から気を許せる相手が、一人くらい居ても良いんじゃない?」
自分がそうであったからこそ、息子にも支え合える相手が居て欲しい。そう思って千景は快斗に優しく微笑みながら言った。
「はぁ…この間ジイちゃんにも似たような事言われたよ。」
「今すぐじゃなくて良いのよ。ただ、そういうのも有りだっていうのは知っておいて欲しいの。」
「……分かったよ。」
そう言う快斗に笑みを深くすると、先程までの雰囲気をガラッと戻して千景は柚希に近づく。
「それにしても、ホント可愛いわよね。お母さんにそっくりだし、将来もっと美人さんになるわ。快斗にはもったいないなぁー。」
「ちょ、何言ってんだよ。つーか、柚希の母さん知ってんの?」
「直接は知らないけど有名人だしね。私、彼女のエッセイの大ファンなのよ!快斗が仲良くしてくれればそのうち会えちゃうかもねっ。」
「……。」
何かにつけてからかおうとしてくる母に、これ以上何かを言うのを諦めた快斗は柚希の頭に乗せたままだった手を再び動かして撫でる。
「柚希ちゃんがお粥作ってくれたから、起きれるなら食べなさい。」
そう言って千景が部屋を出ると、快斗は柚希の肩を優しく叩く。
「……ん?」
「柚希、起きたか?」
僅かに目を開いた柚希は、聞こえた快斗の声にゆっくり顔をあげると、まだまどろんだ瞳のまま快斗を見つめる。
「………かいと?」
(やっべぇ、可愛い!)
快斗の心中など知る由もない柚希は、もぞもぞとベッドの上に這い上がり、快斗に顔を近付ける。
「え、ちょ…柚希?」
−−コツン
「…ねつ、下がった。」
自分の額を快斗の額にコツンと当てて体温を確かめると、少し離れてへらっと笑う。
「…っ!!」
見るからに寝ぼけている、ほわんとした様子に普段とのギャップを感じて、快斗は思わず抱き締めたくなるのを必死に抑える。
「お粥、作ってくれたんだろ?下行くか。」
柚希の頭を少しだけ乱暴に撫でると、ベッドから降りて部屋のドアを開けた。
☆update 2014.12.02