薔薇と宝石の約束




(……私、さっき何した?)


快斗と共に階段を降りながら、寝ぼけていた意識が段々とハッキリして来ると、柚希は先程の自分の行動を思い出して足を止める。


「柚希?」


柚希が止まったのに気付いた快斗が振り返り目が合うと、柚希は顔を真っ赤にして視線をさ迷わせる。


「あの…私、寝起き悪くて…。えっと、ごめんね。」

「いや、謝る必要はねぇだろ。大丈夫、可愛かったから。」

「っ!」


ニッと笑った快斗に言われて、柚希は慌てて視線をそらした。


(あぶねー、あんま見られたら俺も赤いのバレちまうって…)





jewel.25
〈秘密だらけの相関図 3〉







「わざわざ送って頂いてありがとうございます、千景さん。」

「お礼を言うのは私の方よ。また明後日には出かけちゃうから、快斗の事色々よろしくね。」

「あ、はい。お仕事ですか?」

「秘密!」


家の前まで送ってくれた千景の車を見送り自分の部屋に入ると、段ボールの山が目に飛び込む。


(家具を組み立ててもらう約束、少し先になりそうかな)


一緒に買い物に行った際にした約束を思い出し、すぐに必要な訳でもないのだから快斗の風邪が完全に治ってからにしようと決めた。

鞄を置いて、部屋着に着替えてからベッドに座ると、テーブルの上に置いた携帯を見て小さく声を漏らす。


「あ……忘れてた。」


携帯を取って改めてベッドに座ると、履歴から電話を掛ける。


「あ、新一?」

《オメーなぁ、もし何かあって蘭が出たらどうすんだよ。》

「あぁごめん。」


相手の声も聞かずに名前を言う柚希にコナンは呆れた声を出すが、全く気にしていない様子に僅かに溜め息をつく。


《んで?どうした?》

「この前後回しにした話とか、電話で良い?それとも会って話す?」

《あー、そろそろ蘭が帰ってくる頃だし…今度博士んちで良いんじゃねぇか?》

「…哀が鬱陶しそうにするのが目に見えるけど。」


柚希がそう言うも、灰原の事はあまり気にしていないらしく、そのまま博士の家での待ち合わせの日時が決まった。


《そうだ柚希、お前父さんのカードで何か買い物したか?》

「うん、家具とか調理器具とか、まとめて色々買ったけど?」

《使ったら報告しろよ。何にこんなに使ったんだ、って俺に連絡が来たんだからな。》


お互い父名義の家族カードを渡されているが、もちろん何でもかんでも使って良い訳では無いので、使ったら報告するのが暗黙のルールとなっている。


「ごめんごめん。バタバタしてて忘れちゃってた。」

《それもそうだけど、こっちに来てから父さんに連絡したのか?》

「お母さんにはメールしてるから、聞いてるんじゃない?」

《……さすがに可哀想だろ。》


呆れを通り越して完全に同情した声のコナンに、柚希が反論しようとした所で、電話口から蘭のただいま、という声が僅かに聞こえる。


「帰ってきた?」

《あぁ。また後でな。》


あっという間に切られた電話をテーブルに戻すと、その携帯は優作への連絡をすることなく翌日まで放置された。


(お父さんには快斗の事秘密だしなぁ。下手に連絡したら隠し事してるのすぐバレる…。)


そこまで考えて、ふと引っかかる単語に気付く。


(私の周り、大小含めて秘密がある人だらけだな。……もし相関図とか作ったらいくつ“秘密”って言葉が書かれるんだろう。)


そんな事を考えて柚希は一人笑った。










翌朝、教室に入ると快斗の姿は無く、青子が声をかけてきた。


「おはよう、柚希。昨日大丈夫だった?」

「おはよう。うん、家までちゃんと歩いてくれたから。」

「いや、そうじゃなくて…。」


“快斗を無事に送れたのか”という意味だと思ったが、どうやら違うらしく、他に思い当たらない柚希はきょとんと青子を見つめる。


「快斗に変な事されなかった?って事!」


柚希の耳元に口を寄せて言った青子の言葉に、柚希は真っ赤になる。


「そっそんな事ないよ!快斗は何もしてないし、むしろ…」

「むしろ?」


昨日の寝ぼけた自分の行動を思い出し言いかけた所で、慌てて口を噤む。


「あの、快斗のお母さんの千景さんが帰ってきたから。」

「そうなんだ!千景さん帰ってきたんだ!」

「またすぐ出掛けちゃうって言ってたけどね。」


何とかごまかせた事に安心して柚希がふぅ、と一息つくと後ろから声が掛かる。


「おはよー柚希。昨日はありがとな。」

「快斗?!もう大丈夫なの?」

「おー、熱は下がったぜ。柚希との約束もあるしな。」

「だめ。」


その約束が家具の組み立ての事だとすぐに気付いた柚希は、僅かに怒ったような顔で快斗に言った。


「あんなの、いつでも良いんだから完全に治して。ね?」


一瞬驚いたが、自分を心配してわざとそう言っていると分かった快斗は、笑顔で柚希の頭に手を乗せた。


「さんきゅー。」


その手の感触に、嬉しいのを隠したくすぐったそうな顔をする柚希と、それを笑顔で見る快斗を、青子は嬉しそうに見ていた。

update 2014.12.02
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