薔薇と宝石の約束



「おじゃましまーす。」


柚希が学校帰りに阿笠博士の家に行くと、いつもと違いガヤガヤと賑わっていた。


「ねぇ、誰か来たよ!」


柚希の声と足音に気付いたのか、女の子の声が聞こえると部屋のドアに手をかける前に、中から勢いよく開かれた。


「こんにちは。」

「「こんにちはー!!!」」


見たことない人にきょとんとしている子供達3人に、優しくあいさつをすれば、一斉に元気良く返してくれる。
良く見てみれば、帰国した日に見かけた、コナンと一緒に帰っていた子達だと思い出した。


「姉ちゃん、誰だ?」

「元太くん、いきなり失礼ですよ!」

「大丈夫だよ。初めまして、工藤柚希です。よろしくね。」


柚希は膝に両手を当て姿勢を低くして子供達に視線を合わせると、少しゆったりした口調で自己紹介をした。


「俺、小嶋元太!」

「私は吉田歩美だよ!」

「僕は円谷光彦と言います!」

「元太くんと、歩美ちゃん、光彦くんね!」


一人一人目を合わせて名前を呼ぶと、3人共嬉しそうに顔を見合わせる。


「あ、あっちに居る2人は…」

「俺達は知ってるから大丈夫だぜ。柚希ねーちゃん早かったね。」


コナンと哀の事も紹介しようとした光彦に制止の声を掛けると、コナンは子供モードの話し方で柚希に言った。


「先生の都合で少し早く終わったの。哀ちゃんはちょっと久しぶりだね。」

「えぇ。」

「ねぇねぇコナンくん、お姉さんと知り合いなの?」

(あれ、この子……新一ってば天然タラシな所あるからなぁ)


歩美がコナンに話しかける様子を見て小さな恋心を感じ取った柚希は、一瞬、呆れたような目でコナンを見る。


「柚希ねーちゃんは、新一兄ちゃんの妹で蘭ねーちゃん達の友達なんだよ。しばらくアメリカに居たけど、最近帰って来たんだ。」

「じゃあ、隣のでっけー家に住んでんのか?」

「ううん。今は別の所で1人暮らしだよ。」


以前はお化け屋敷扱いされていたが一応、“新一という人の家”と認識されたらしい工藤邸を指差しながら元太が聞くと、次いで光彦がポンと手を叩く。


「あ、だから制服が蘭さん達と違うんですね!」

「そうだよ。私は江古田高校だからね。」


子供達とわいわい話していると、時計を見た灰原がこちらへ歩いてくる。


「さ、あなた達はそろそろ帰りなさい。今日は遅くならない内に帰るって、家の人に言ってあるんでしょう?」


灰原に促され玄関に向かう子供達は、あれやこれやと文句を言いつつも、素直に家に帰っていった。


「悪ぃな、騒がしくて。」

「子供らしくて良いじゃない。新一と哀は、学校でさぞかし浮いてるんだろうなぁ。」

「あら、工藤君の演技はかなりのものよ?」


ハシャぐ子供達の中で2人だけが冷めた様子なのを思い浮かべると、すかさず灰原がニヤッとした顔でコナンを見てそう言う。


「じゃ、私は下に居るから。」

「おい!…ったく。」


コナンから文句を言われる前に地下室へ向かってしまった灰原の姿を見送ると、柚希とコナンの2人はソファに向かい合って座った。


「おぉそうじゃ、ワシは買い物があるからちょっと出かけてくるよ。」


1人取り残された博士がバタバタと出掛けて行く音を聞きながら、柚希は口を開く。


「んーと……取り敢えず何の話だっけ?」


聞きたいであろう事は分かっていたものの、何から切り出せば良いか迷った末、柚希はそう言った。


「あぁ、じゃあ取り敢えず…この前のデートの相手ってのは誰だ?」

「クラスメイト。」

「男、なんだな?」

「うん。」


そこまで聞いて、コナンは一度間を置いてから更に質問する。


「そいつとは、付き合ってるのか?」

「付き合ってないよ。友達。」

「……お前の気持ちは?」


コナンの質問に、今度は柚希が間を置く。


「………………好きだよ。」


目を僅かに逸らして答えた柚希の頬が赤いのを見て、コナンは何とも言えない顔をする。


「……そいつの、名前は?」

「内緒。」

「柚希、」

「だけど……この言い方なら答えるよ。」


コナンの言葉を遮って言う柚希に、コナンはその目をじっと見つめる。


「“バラの男の子”」


静かな部屋に響いた、昔から何度も聞いていた呼び名。
しばらく見つめ合うと、コナンは小さく溜め息をついた。


「え…新一?」

「いや、正直ちょっと安心したんだよ。これまでお前に近付こうとする変な奴らを追っ払って来たのに、あっという間に取られたのかと思ってちょっとイライラしてたんだ。でも、お前がずっと思い続けてたそいつなら、まだ許せるからな。」


自嘲ぎみに笑いながら言うコナンに、柚希は目を見開く。


「…新一、そんな事してたんだ。」

「あぁ、蘭も一緒にな。」


笑って言われた言葉にさらに驚いていると、ふいに柚希、と名前を呼ばれる。


「良かったな、再会出来て。」

「っ!……うん!!」


優しい笑顔で言われた柚希は、満面の笑みを返す。


「ったく、幸せそうな顔しやがって。じゃあ………もう一つの話だ。」


穏やかな雰囲気も束の間、コナンは真剣な顔で口を開いた。






















「お前と怪盗キッドは、どういう関係なんだ。」





jewel.26
〈痛む心が壊れる前に〉
−世紀末の魔術師編−
update 2014.12.04
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