「お前と怪盗キッドは、どういう関係なんだ。」
jewel.27
〈痛む心が壊れる前に 2〉
「関係って言われても、答えに困るんだけど。」
一段と低い声で聞いてきたコナンに、柚希は思った事を正直に答える。
「最初の予告状の時、キッドが去り際にお前に耳打ちしてたのは何だ?」
「あれは、“女性が夜更けに1人で外出するのは関心しない、帰り道には気をつけて”って言われただけだよ。」
−− あえて関係と言うなら…俺があの子を気に入った、って事くらいだな
キッドの台詞を思い出し、コナンは表情を険しくする。
「じゃあそもそも、どうしてあの日屋上に来たんだ?」
「あの時も言ったけど、予告状なんて出す怪盗がどんな奴か興味があったからだよ。予告状に“嘘”っていう意味があるのも気付いたし、新一も居るから特に危険は無いと思って。」
あくまでも疑われて困っている言い方で答える柚希を、コナンはじっと見つめる。
「あの時初めて会ったんだな?」
「もちろん。船上パーティーでも、蘭に変装してるって気付いて本人に問い詰めたらすぐに眠らされちゃったし、話す機会なんてろくに無かったよ。」
(嘘はついてない…“キッド”との話なんだから)
嘘では無いのだから見抜かれる事はない、柚希はそう内心で呟いて不安が顔に出ないよう気を付ける。
「……そうか。ただ、お前がそう思ってても、奴は違う。」
「え…どういう事?」
「この前、キッドが俺に言ったんだよ。お前の事を気に入った、ってな。それに柚希、お前マジシャンの真田が変装してたキッドを、すぐに偽物だって気付いたんだってな?それをあいつ得意気に話しやがって……何が“あの子の方も、俺に興味持ってくれてるかもしれねぇな ”だ、ふざけんじゃねぇ。」
段々独り言になってブツブツ言っているコナンを、柚希は微妙な顔で見つめながら止めるべきか悩む。
「柚希!」
「な、何?」
「今度の大阪、出来るだけ奴に直接関わらない様に気を付けろよ。」
いきなり大きな声で名前を呼ばれて驚いていると、聞き覚えのない話について行けずぽかんとしてしまう。
「大阪……って何?」
「え?園子から聞いてねぇのか?今週末、大阪の鈴木近代美術館に展示されるメモリーズ・エッグをキッドが狙ってるんだ。その捜査協力でおっちゃんが呼ばれてるついでに、俺達も一緒に行く事になったんだよ。柚希も誘うって言ってたから、そのうち連絡があるだろ。」
「そうなんだ。……って今週末?荷物の準備必要なのに連絡遅いって…。」
−−−ピロリン
溜め息をつくと同時に着信を告げた携帯を見ると、たった今聞いた事が書かれた園子からのメールだった。
「…取り敢えず、準備もあるし帰るね。」
「あぁ、気を付けろよ。」
柚希はコナンに手を振ると、地下室の灰原に聞こえるように大きめの声でまたねー!と言って玄関を出て行った。
「その顔は、納得いく答えじゃ無かったようね。」
何か考え込むコナンが横から聞こえた声に顔を向けると、いつの間にか地下室から上がってきた灰原が立っている。
「話を聞いた限りじゃ、柚希は本当にキッドとは特に何も無かったと思えるんだが…。」
「何か気になる訳?」
「ずっと一緒に居たから分かるんだよ、何か隠してるって。ただ、嘘をついてるのとは違う感じで……ったく、どういう事だよ。」
頭をガシガシとかいているコナンを見ながら、灰原はフッと笑う。
「ま、何かあるならいつか分かるでしょ?週末はその彼を追い掛けに行くんだし。」
そう言って再び地下室に向かいながら、灰原の右手は携帯に何か打ち込んでいた。
「っくしゅ!」
「柚希、風邪でもひいた?」
「いや、そんな事ないと思う。すいません、おじさん続きを…。」
柚希のくしゃみで中断した話を、小五郎はあぁ、と言って話し出す。
「黄昏の獅子から暁の乙女へ
秒針のない時計が12番目の文字を刻む時
光る天の楼閣から
メモリーズ・エッグをいただきに参上する
世紀末の魔術師 怪盗キッド」
大阪に向かう新幹線の中で、小五郎が予告状の内容を蘭とコナン、そして柚希に読み上げる。
「対策会議では中森警部がこの予告状について解読した内容を説明し、今日の日没から明日の日の出までの間に、大阪城の天守閣からやってくるという事になったんだ。」
「へぇ。じゃあ、“秒針のない時計が12番目の文字を刻む時”はまだ分かってないんですね?」
「あぁ、時間を示すのは確かだろうとは言っていたがな。」
コナンが聞いてもわざわざ教えてくれないだろうと、柚希が会議での内容を知りたいといえば、小五郎は快く話してくれた。
「あと、この“世紀末の魔術師”っていうのは、キッドがいつも使っている名前なんですか?」
「いや、俺は初めて聞くな。」
「僕もキッドの予告状は何度も見てるけど、そんなの一度も無かったよ。」
「…ふぅん。」
(いつもは無いってことは、それにも理由があるはず。キッドは宝石ばかり狙うらしいのに今回は違うのも、きっと関連してるんだろうけど……。)
黙って考え込む柚希を、正面に座っているコナンがじっと見つめていた。
update 2014.12.06