新幹線を降り、駅まで迎えに来てくれた園子の後をついて行くと、豪華なリムジンが待っていた。
「さすが鈴木財閥…。」
「だって今日は特別なんだもの!」
「…特別?」
柚希の呆れたような声に答える園子を、小五郎が訝しげに見ながら聞くと、園子は手を組み目をキラキラさせながら話し出す。
「だって憧れのキッド様に会うには、これくらいでないとねぇ!」
「……憧れって園子、まさかキッドの事好きなの?」
「だって素敵じゃない!月夜に浮かぶ純白の姿!」
「…ふぅん。」
「あ、運転してくれてるのはパパの秘書の西野さん。ずっと海外をあちこち旅して回ってたから、英語、フランス語、ドイツ語がペラペラなんだよ!」
「へぇ、すごーい!」
柚希の声がほんの僅か、不機嫌そうな声になった事にコナン以外気付かないまま、車は走り続けた。
jewel.28
〈痛む心が壊れる前に 3〉
「さ、着いたわよ!」
大阪城公園内に作られた、独特なデザインの博物館は、その建物の凄さよりも至る所に配備された警官に目がいってしまう。
「すごい警戒ね。」
「まさに蟻の這い出るスキもねぇって感じだな…。」
蘭と小五郎の言葉に、園子は得意気な顔になる。
「あったり前よ!相手はあの怪盗キッド様!何たって彼は…」
「神出鬼没で変幻自在の怪盗紳士…。」
園子の言葉を遮るようにして聞こえた声に一斉に振り返ると、バイクに跨がった2人がこちらを向いている。
「固い警備もごっつい金庫も、その奇術まがいの早業でぶち破り、オマケに顔どころか声から性格まで完璧に模写してしまう変装の名人ときとる……。ホンマに、めんどくさい奴を敵に回してしもたのう…工藤!」
「……え、私?」
「へ?」
この場に居る“工藤”は、表面上は自分だけのはず、と一瞬心の中で確認してから柚希が反応すると、呼んだ当の本人が抜けた声を出す。
「…って、あれ?平次君?」
ヘルメットを外した顔を見ると、柚希は恐る恐る彼の名前を呼ぶ。
「おぉ!柚希やないか!ひっさしぶりやなぁ。こないなトコで何してん?!」
「何って言われても…」
「ね、ねぇ服部君。ちょっと聞いて良い?」
柚希に気付いてテンションが上がっている平次に、蘭は戸惑ったような様子で聞く。
「“工藤”って、柚希の事呼んだんじゃないの?」
「ちゃうちゃう!さっきのはこいつに……あ。」
コナンを指差してから自分の失態に気付いたのか、平次は視線を泳がせる。
「もう、何で服部君いつもコナン君の事工藤って呼ぶの?」
蘭の問いに慌てて言い訳する平次を横目に、柚希はコナンの横にスッとしゃがみ込む。
「ちょっと新一、もしかして前話してた西の探偵の“服部”って平次君の事?」
「あぁ。俺の事も話してある。」
「なるほど。」
必要な情報だけ聞いてまた立ち上がると、和葉が平次につっかかっている。
「今日も朝から工藤が来る工藤が来る言うて、いっぺん病院で診てもろた方がええんちゃう?」
「まぁまぁ…。そういえば、服部君と柚希って知り合いだったの?」
「そうや!私初めて会うけど、平次知っとるん?」
蘭の疑問は和葉も気になっていたらしく、平次の顔をじっと見つめる。
「中学ん時に、剣道の全国大会で知り
会うたんや。女子の優勝者やで。今三段か?」
「まだ二段だよ。私早生まれだから、今年やっと昇段試験受けられるの。」
「ま、実力だけで言うなら、八段や言われても可笑しないけどな。」
へぇー、と平次の説明を聞く和葉に、柚希はニコリと微笑む。
「はじめまして、工藤柚希です。」
「あたし遠山和葉。仲良うしたってな。」
「…おい柚希、お前工藤言うんか!」
「え、今更?!…私、新一の妹だよ?」
和葉と握手をしている横から聞いてくる平次に柚希が呆れてそう言うと、平次はぽかんとして動きを止めた。
「………はぁ?!工藤の妹って…せやかてお前、同い年やんか。まさか双子か?!」
「双子じゃないよ。新一が5月生まれ、私が翌年3月生まれで、正真正銘の妹だけど学年一緒。」
「へぇ、そないな事あるんやねぇ!」
(………後で服部がうるさそうだな)
2人になった時に色々聞かれるであろう事を想定して、コナンが今からゲンナリしていると、今まで黙っていた小五郎が痺れを切らしたように一歩踏み出す。
「おいお前ら、いつまでもこんな所で喋ってないで、そろそろ行くぞ。」
「あ、こっちよ。」
やっと歩き出した一行は、園子と西野の案内で美術館内の会長室へと向かった。
☆update 2014.12.09