『ねぇ快斗。あれ、ちょっとバランス悪いけど、ひらがなの“く”だよ。』
『あぁ、本当だ。じゃあ3時は“L”で長さもピッタリだな。“I”はつまんねぇし…。』
『………あ、7時20分!』
『7時20分?…そうか“へ”か!』
『あたりっ!』
博物館に向かって走る柚希は、以前快斗と出掛けた時の何気ない会話を思い出す。
(「黄昏の獅子から暁の乙女へ」の12番目の文字は“へ”だし間違いない。まさかあの時の思い付きを使ってるとはね……。)
jewel.32
〈痛む心が壊れる前に 7〉
コナンと平次が美術館に戻ると、入り口で初老の男性を連れた若い女性が西野に話をしている所だった。
「私、
香坂夏美と申します。こちらは執事の
沢部です。このパンフレットにあるインペリアル・イースター・エッグの事で、是非とも会長さんと会ってお話したいのですが…。」
「あいにく会長は出てまして、私でよろしければ伺いますが…。」
「このエッグの写真が違うんです!曾祖父の残した絵と…。」
通りすがりにコナンがその様子を横目に見ていると、平次が何か気付いたような声を出す。
「こらオモロいな!夜中の3時が“L”やったら、今は“へ”やで。今7時13分や。7時20分になったら、完璧な“へ”やで!」
「っ!!」
平次が腕時計を見せながら説明すると、予告状の意味に気付いたコナンが声を上げる。
「服部!キッドの予告した時間は午前3時じゃなく、午後7時20分だ!」
「何やて!?…って何処行くねん!工藤!」
「大阪城だ!お前はエッグを見張ってろ!」
コナンが走り出すと、ポツリと雨粒が落ちてくる。
顔に当たったその水滴に、天気予報では晴れだったのを思い出した平次は目を見開く。
「待てや工藤!天の楼閣は天守閣やない!通天閣や!!あそこのてっぺんは光の天気予報なんや!」
「何っ!?」
純白の鳩が優雅に舞い降りた通天閣の一番上で、鳩の足元から盗聴器を外す白い人影が月明かりに照らされる。
(全員、予告時間を完全に勘違いしてたし、柚希もまだあの時の会話に気付いてないって事だよな、きっと。……頼むから、そのまま気付かないでくれよ…。)
僅かな不安を隠すように口元に笑みを浮かべると、キッドは両手を大きく広げる。
「レディース・アーンド…ジェントルメーン!!!」
思い切り叫ぶと、光きらめく街並みを見下ろし手元のスイッチに指をかける。
「さぁ、ショーの始まりだぜ!」
−−ヒュルルル…ドン!
−−ヒュルルル…ドン!ドォン!!
大阪城上空に勢い良く上がる花火に、至る所で人々が注目する。
「…花火?」
大阪城に向かって走っていた柚希は、突然上がった花火に足を止める。
(わざわざ盗みに入る場所に注目を集めるなんておかしい…。もしかして、本当の場所から目を逸らす為?でもどうして…)
切れた息を整えつつ、辺りの建物を見渡しながら考えていると、突然視界が真っ暗になる。
(停電?!いったい何をする気なの?)
突然光を失った事で、目が慣れるまでに時間がかかる。
僅かに周りの様子が分かり始めると、周辺で一つのビルだけ明かりが点いた。
(あれはホテル?そっか、自家発電………まさか!)
「…法円坂、ミカド病院……ホテル堂島センチュリー……天満救急医療センター……ホテル・チャネル・テン……難波TMS病院……関西ホテル・ワールド………」
暗闇と化した大阪の街を通天閣の上から見下ろすキッドは、自家発電に切り替えて電気の点いた場所を一つ一つ確認していく。
「…ビンゴ!」
そしてその中に病院でもホテルでもない、ごく普通のビルを見つけると、ハンググライダーを広げ飛び立った。
コナンが停電で信号も消え、パニック状態の道路をスケボーで縫うように走っていると、ポケットの携帯が柚希からの着信を告げる。
「悪い、今急いでんだ!」
《新一!もしかしてエッグって何処かに移動した?!》
「お前っ何でそれを!」
《やっぱり!エッグは何処なの?!》
「俺に任せて、お前は大人しくしてろ!」
《ちょっと!新い…》
最後まで聞くことなく電話を切ると、目の前が行き止まりになっている事に気付く。
「やべぇ、行き止まりだ!」
「乗れ!工藤!!」
聞こえた声にコナンが振り返ると、バイクで追ってきた平次の姿があった。
update 2014.12.28