《俺に任せて、お前は大人しくしてろ!》
「ちょっと新一!……切られた。」
(哀からのメールにあった通り、まだ疑ってるから関わらせないって事?)
数日前灰原から届いた『あなたの疑い、完全に晴れてはいなそうよ…』と書かれたメールを思い出す。
不満げな顔で携帯を見つめると、柚希は小さくため息をついてから暗い街を見渡した。
(そういう事するなら、こっちはこっちのやり方があるんだから…)
jewel.33
〈痛む心が壊れる前に 8〉
「なるほど!その明かりが点くんを見渡すのに、通天閣は絶好の位置取りや!」
コナンを乗せたバイクは、渋滞した車の隙間を縫うように走っていく。
「奴は予告状を出す前から、こうなる事を読んどったっちゅう訳やな!」
「しかもその場所は、外部からそれと気付かれないために…」
「警備は手薄!」
平次は、見上げた視線の先に、白い翼が飛んでいるのを見つける。
「こら早よ行かな…盗られてしまうぞ!」
とあるビルの屋上、柵に寄りかかるようにして小さな双眼鏡を覗き込む柚希は、光の少ない街をキョロキョロと見渡していた。
「…ここじゃ高さが足りない。」
キッドと同じく明かりでエッグの隠し場所を探そうとしたものの、手近なビルでは街全体を見渡すには低く、見つからない。
場所を変えようと柵から離れた瞬間、目の前を白いものが通過する。
「キッド!!」
柚希の声に気付いてこちらを見たようにも見えたが、その白い影はあっという間に飛び去ってしまう。
その姿を見つめていると、ビルの影に入って見えなくなる。
慌てて屋上を走り位置をずらすと、そのビルの向こうに僅かだが光が見える。
(あれがきっとエッグの隠し場所…。今からあそこに行っても間に合う訳がない。)
柚希はポケットからハンカチを取り出し、上に掲げてなびかせる。
(あの場所からこの方向だと……大阪湾の方!)
風向きを確認すると、柚希は急いで屋上を出た。
(何で柚希があんな所に…いや、今はそんな事考えてる場合じゃないな。)
中森警部達を眠らせ、置いてあったエッグの箱を持ち上げる。
そして窓を開けた所で勢い良くドアが開けられ、キッドは後ろを振り向く。
「キッド!!」
「来たな、探偵くん。」
「エッグを渡せ!」
「それは無理な相談だな。所で……お前、柚希嬢も巻き込んでるのか?」
キッドの言葉に、コナンの顔がより一層険しくなる。
「何で柚希の名前が出てくるんだよ?やっぱりお前ら何か…」
「言ったはずだぜ?俺が気に入っただけだ、ってな。此処に来る時にビルの屋上に居るのを見かけたんでね、お前が危険な事に巻き込んでるなら、止めさせようとしただけだ。」
「余計なお世話だっ!」
コナンがキッドの方へ走り出そうとした足元に、パシュッと音を立ててトランプが突き刺さり、さらに煙幕が張られ視界が遮られる。
その隙に窓から飛び降りたキッドは、ハンググライダーで空へと飛んで行く。
(バイク…あのガキの仲間か?)
一歩遅れてロープを伝って外に降りたコナンは、平次に投げられたヘルメットを被ると、バイクに飛び乗る。
「ハンググライダーが飛ぶには、軽い向かい風が理想的だ!」
「風上に向かって飛んでるっちゅう訳やな!」
スピードを上げるバイクを、キッドは後方の視界に捉える。
(こっちは障害物の無い空の道。追い付くのは無理だぜ。)
口元に笑みを浮かべると、目的地に向かって高度を下げる。
「高度を下げ始めたぞ!」
「この先は大阪湾や!キッドの奴、絶対降りよるで!……っ?!」
上を見上げていた平次が視線を前に戻すと、目の前に迫ったトラックの姿が飛び込んでくる。
避けきらずにバイクから2人同時に投げ出され、コナンは抱えていたスケボーで上手く着地したものの、平次は地面に叩きつけられてしまった。
「服部!大丈夫か!?」
「何してんねん、早よ行け!逃がしたらしばくぞコラ!!」
「…服部。」
慌てて駆け寄った所で言われた言葉にコナンは力強く頷くと、トラックから降りてきた運転手に警察と救急車を呼ぶよう頼んでからスケボーで走り出した。
「はぁ……先回り…出来たのかな…。」
先ほどのビルから走って息を切らせた柚希は、大阪湾の上空を見渡す。
(……見つけた!!)
まだ距離があるため少し小さく見える白い翼を見つけると、そちらに向かって駆け出そうとする。
しかし、その直後に不自然な動きをするのが見えて足が止まった。
(え……何?)
ハンググライダーがまるで落ちて行くように見え、全身から血の気が引く感覚に不安が増していく。
「………嘘、だよね……?快斗っ。」
update 2014.12.31