不安に震える足を無理やり動かして柚希は走り出す。
(快斗っ!お願いだから、無事で居て!!)
jewel.34
〈痛む心が壊れる前に 9〉
柚希と同じくキッドの動きが妙な事に気付いたコナンは、向かう方向を変える。
スケボーで進んだ先には、白い鳩が倒れていて、そっと抱き上げると傷付いているのが分かる。
そして視線を動かすと、壊れた桐箱が目に入った。
「エッグは無事か………ん?これは、キッドのモノクル!!」
この状況とキッドの不自然な動き、そして此処に来る時に僅かに見えた人影からまさかと考えた時、必死に自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「新一!!」
「柚希!何でこんな所に…」
「そんな事より!どうなってるの?!さっき、キッドが落ちてる様に見えてっ!」
「お前……。」
いつになく取り乱した様子の柚希に何か察する物があったが、今は触れないでおく事にして言葉を飲み込む。
「ねぇ新一っ!」
「取り敢えず落ち着け。いいか、俺もハッキリ見た訳じゃないから、あくまでも可能性があるってだけだが………キッドが撃たれたかもしれない。」
「………撃たれた…って、なに?」
柚希の足が微かに震えているのに気付くが、コナンはさらに続ける。
「さっき此処に来る途中、薬莢が落ちた様な音と、サイレンサー付きの拳銃に見える物を持った人影を見た。そしてこの鳩やエッグ、割れたモノクルを見れば…撃たれたと考えるのが自然だ。」
「……うそ。………ねぇ、嘘って言ってよ!」
「…柚希。」
コナンが何も言えずに居ると、柚希は足の力が抜けたようにへたり込んだ。
「っ!…このお守り……。」
足元に落ちている見覚えのあるお守りを見つけ、震える手で拾い上げる。
そして、それを強く握り締めると、肩を震わせながら我慢していた涙を零す。
コナンに抱えられた鳩が、弱った瞳で柚希を見つめていた。
警察が一晩中かけてキッドを捜索したものの生死を確認出来ずに迎えた翌日、エッグに傷が無いか調べる為、展示を取り止めて鈴木家の船で東京へ持ち帰る事になった。
船には柚希やコナン達の他に、昨日会長に紹介された4人、そして昨夜西野に話をしていた香坂夏美とその執事である沢部も乗船しており、夏美の話を聞く為に全員が部屋に集まっていた。
「私の曾祖父は
喜市と言いまして、ファベルジェの工房で細工職人として働いていました。現地でロシア人の女性と結婚して、革命の翌年に2人で日本へ帰り、曾祖母は女の赤ちゃんを産みました。ところが間もなく曾祖母は死亡…。9年後、曾祖父も45歳の若さで亡くなったと聞いています…。」
「その赤ちゃんというのが…。」
鈴木会長の方を真っ直ぐ見ながら、夏美は答える。
「私の祖母です。祖父と両親は、私が5歳の頃に交通事故で亡くなりまして…私は祖母に育てられたんです。」
「その大奥様も、先月亡くなられてしまいました。」
沢部が付け足すと、夏美は鞄の中から紙を取り出しながら続ける。
「私はパリで菓子職人として働いていたんですが、帰国して祖母の遺品を整理していましたら、曾祖父が書いたと思われる古い図面が出てきたんです。」
真ん中が破れてしまっていますが…、と言いながらテーブルに広げられた図面には”MEMORIES”と書き込んであり、会長は確かにメモリーズエッグだと確信する。
「しかし、これには宝石が付いていたのに…。」
「元々宝石が付いていたのに、取れちゃったんじゃないでしょうか?」
手元のエッグとの違いに浮かない顔をする会長に小五郎がそう言うが、いまいち腑に落ちないでいると、図面を
見つめていたコナンがねぇ、と声を上げた。
「もしかしたら、卵は2つあったんじゃない?」
「え?」
「だってホラ…1つの卵にしては、輪郭が微妙に合わないじゃない。本当はもっと大きな紙に2個書いてあったのが、真ん中の絵がごっそりなくなってるんだよ!」
コナンの言葉に大人達が納得する中、エッグを手に取り観察していたコナンが底を覗いて何かに気付く。
(こんな所に鏡が……。)
エッグの底に空いた穴の中に見つけた鏡が気になり指で軽く触ると、簡単に取れた鏡はポロッと床に落ちてしまった。
「あっやべ!取れちゃった!」
「何をやってんだお前は!」
「か、鏡が付いてたけど取れちゃった…。」
「何ぃ!?」
苦笑いしながら言うコナンに小五郎が大声を上げる間に、柚希は落ちた鏡を拾うと不思議そうに角度を変えて観察している。
「あの鏡、簡単にはずれるようになってるから大丈夫よ。どうやら、後からはめ込んだみたいなのよね。」
園子の言葉に安堵の息が聞こえた時、柚希は手にした鏡を見つめて納得したように口元に笑みを浮かべた。
update 2015.01.07