薔薇と宝石の約束




園子に手を引かれて青蘭の部屋まで歩くコナンは、さっき鳩を撫でていた柚希の悲しげな顔を思い出していた。


(……アイツ、皆の前では笑ってるけど、大分無理してるな)


−− さっき、キッドが落ちてる様に見えてっ!

−− ………ねぇ、嘘って言ってよ!


(柚希にあんな顔させやがって……いるなら早く姿を現せ…キッド)





jewel.36
〈痛む心が壊れる前に 11〉







「すぐ用意しますから、ちょっと待って下さい。」


青蘭の部屋に着いて、女性で集まってるので来て欲しいと伝えると、快く了承して部屋の奥へと入って行く。


「グリゴリー…。」


机の上に置かれた写真立ての裏に、そう書いてあるのを見つけたコナンが思わず呟くと、園子も写真に気付く。


「あ…もしかして、そこにあるのは彼の写真?」

「え?!……えぇ、まぁ。」


青蘭は驚いたように振り返ると、写真立てを机に伏せた。










「じゃあ夏美さん、20歳の時からずっとパリで暮らしてたんですか?」

「そうなの…だから時々変な日本語使っちゃって…。」


6人が集まった蘭の部屋のテーブルには、お茶やお菓子が並んでいる。
夏美は自分の言葉に、ふと思い出すような仕草をして話を続けた。


「変な日本語といえば、子供の頃から妙に頭に残って離れない言葉があるのよね…。」

「へぇー、何ですか?」

「“バルシェ、ニクカッタベカ”…」


意味が良く分からない言葉に、蘭や園子はポカンとしてしまう。


「“バルシェは肉を買ったかしら”って意味だと思うんだけど、そんな人の名前に心当たりないのよね…。」

「何か他に意味のある言葉とか…?」


柚希の言葉に皆が頭にハテナを浮かべていると、コナンが何か気付いたように夏美を覗き込む。


「あれ?夏美さんの瞳って…。」

「そう、灰色なのよ。母も祖母も同じ色で、多分曾祖母の色を受け継いだんだと思う。」

「そういえば、青蘭さんの瞳も灰色じゃない?」

「「?!」」


蘭が気付いてそう言うと、一斉に青蘭に視線が集まる。


「本当だ!中国の人も灰色なのかな?」

「あの、青蘭さんって青い蘭って書くんですよね?私の名前も蘭なんです!」


そのまま話は名前の中国読みの話になる。
柚希はさっきまで何とか話について行っていたが、気付いた時にはボーッとして話が聞こえていなかった。


「ちょっと柚希!聞いてる?」

「大丈夫?体調でも悪い?」

「ううん、ちょっとボーッとしちゃった。ごめんね2人共。」


園子の声にハッとした後、気遣ってくれる蘭に申し訳無さそうにする柚希を、コナンは心配そうに見つめる。


「あの、青蘭さんって私と同い年位だと思うんですけど…。」

「はい、27です。」

「やっぱり!何月生まれ?」


同い年だと分かった夏美は、嬉しそうに青蘭に生まれ月を聞く。


「5月です。5月5日。」

「私5月3日!2日違いね!!」

(え……)


夏美の言葉に嫌な予感がした瞬間、止める間もなくコナンが口を開く。


「じゃあ2人共ボクとは1日違いだ!」

(……バカ)


思わずため息をつきたくなるのを何とか抑えたものの、柚希のコナンを見る視線は厳しい。


(普段は自分の誕生日なんて忘れてる癖に、何でこういう時に限って……)


チラッと蘭の方を見ると、予想通り深刻そうな顔で考え込んでいるのが分かる。

自分自身の気持ちも不安定な所で、予想外の問題まで出てきた事に柚希は頭を抱えたくなった。










(……まだ繋がらない)


夕食の時間まで部屋で休む事にした柚希は、昨日から何度目かの電話を快斗の携帯に掛けていた。
しかし、聞こえてくるのはコール音ではなく、無機質な声のアナウンスばかり。

携帯をポケットにしまうと、代わりに手にしたお守りの中からネックレスを取り出した。
しばらくその淡いピンクを見つめた後、自分の首に着けてそっと石に手を触れると、お守りをしまう。

そして柚希はソファーに座ると、置いてある大きめのクッションを抱きかかえて顔を深くうずめた。


(快斗……。このままじゃ私、作り笑いすら出来なくなっちゃうよ…)


涙が滲みそうになるのを必死に耐えていると、外が何だか騒がしい事に気付きドアからそっと顔を出す。
すると、コナンを先頭に小五郎や蘭、西野が廊下を走っていくのが見えた。


(何か、あったの…?)


ただ事ではないその様子に、柚希も慌ててその後を追った。










寒川の部屋に辿り着いたコナン達が部屋の中を見ると、血を流して仰向けに倒れて動かなくなった寒川の姿と、無惨に荒らされた部屋の様子が飛び込んでくる。

コナンが一足先に寒川の遺体に近付いて、横を向いている顔を確認すると、右目を銃で撃たれたのが分かった。


(……!!あの時、キッドも右目を…!!)


大阪湾で見つけたキッドのモノクルを思い出し、その共通点に気付いた時、遅れて来た柚希が部屋に入ってくる。


「え…寒川さん?……おじさん、もしかして…。」

「あぁ、亡くなってるよ。」


目を見開いて驚いている柚希の足元にコナンが駆け寄る。


「柚希ねーちゃん見ない方が良いよ!蘭ねーちゃん達と外に……」

「右目…撃たれてるの……?」

「!!」


静かに言った柚希の手が、きつく握られるのが見えたコナンは、それ以上声を掛けることが出来なかった。

update 2015.01.15
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