「頬の硬直が始まったばかりだ。死後30分程しか経ってないな。」
遺体の状態を確認している小五郎は、首もとに視線を落としてある事に気付く。
「ん…?指輪のネックレスがなくなってる!」
(指輪のネックレス?)
聞き覚えのないキーワードに柚希が小五郎の方を見ると、スッと立ち上がり会長に向かって厳しい顔で口を開く。
「鈴木会長、これは殺人事件です。警察に連絡を!」
「は、はい。」
jewel.37
〈痛む心が壊れる前に 12〉
「分かった!すぐに行く!!」
船での事件の連絡を受けた目暮が、高木や鑑識を引き連れてエレベーターを降りると、目の前には休暇を取って軽井沢の別荘にいるはずの白鳥の姿。
「白鳥君!どうしたんだね?」
「別荘にいても暇なので…。事件ですか?」
「丁度良い、君も来てくれ!」
「はい!」
目暮の言葉に頷くと共にヘリに乗り込む。
ふと向かいの高木を見た白鳥はある事に気付いた。
「高木君、その絆創膏どうしたんだい?」
「あぁいや、昨日犯人とやり合っちゃってちょっと…。」
そう言って高木は右目のすぐ上に貼られた絆創膏を隠すように手で覆う。
「あまり情けない所ばかり見せていると、愛想を尽かされるよ…。」
「な、何の話ですか白鳥さん。」
誤魔化すように言う高木にフッと笑うと、白鳥は窓の外の暗闇に視線を落とした。
警察の到着を待つ間、柚希はトイレに行くと言ってコナンを連れて廊下を歩いていた。
「ねぇ、さっきの指輪のネックレスって何?」
「あぁ…お前らと別れた後、夏美さんと青蘭さんとデッキに向かったら、おっちゃんと鈴木会長、それと寒川さんが飲んでてな、その時青蘭さんが寒川さんのネックレスに気付いたんだ。ちゃんと鑑定しないとハッキリしないが、ニコライ皇帝の三女、マリアの指輪らしい。」
「…あの人、そんなの着けてたっけ?」
何度か顔を合わせた時の事を思い出してみても思い当たらずそう言うと、コナンも引っかかっていたらしい。
「俺もその時初めて見たんだ。わざわざ見せる為に着けてたとも思えるだろ?」
「うん。それと、指輪欲しさに襲ったにしては、部屋が荒らされ過ぎじゃない?」
「あぁ。単純な事件では無さそうだな…ってお前、あまり事件に首つっこむなよ?」
コナンの言葉に柚希は不満げな顔をする。
「小学生に言われたくないけどねー。」
「オメーなぁ…」
「そんな事より!あまり目立つ事して正体バレないように気をつけてよ?さっきだって…」
「あ!居た居た、柚希!」
蘭に疑われている事を伝えようとした柚希だが、警察が到着したらしく蘭が呼びに来てしまい中断される。
(…まぁ、気を付けてとは言ったし。それにしてもこの船、空調おかしくない?なんか暑い…。)
「目暮警部、お久しぶりです。」
「ん?…おぉ、優作君の所の柚希君か!」
「はい。兄がお世話になってるみたいで…。」
柚希が挨拶をすると、目暮は懐かしむように笑顔になる。
「いや、工藤君には色々助けてもらってるよ。最近はあまり姿を見せないが…いや、今はこれくらいにしておこう。」
世間話になりそうなのを抑えた目暮は早速現場へと向かう。
「警部、あの子は…?」
高木の質問に目暮は、白鳥と高木は柚希と会った事が無いのを思い出す。
「彼女は工藤新一君の妹さんだよ。昔は兄妹揃って優作君と一緒に現場に来ていたもんだ。」
「そうなんですか。」
(工藤新一……聞いたことあると思ったら、あのよく新聞に載ってた高校生探偵が柚希の兄貴かよ…。)
その場に相応しくない心の声は、誰にも届くことなく消えていった。
現場を検証している目暮に、小五郎は指輪を狙った強盗殺人だと主張するが、コナンが口を挟む。
「指輪を盗るだけなら、首から外せば良いだけでしょ?部屋を荒らした上、枕まで切り裂いてるのはおかしいよ。」
羽毛だらけのベッドを指差し言うコナンに小五郎がイラついていると、鑑識が部屋に落ちていたボールペンを発見する。
皆が待機しているホールに移動し、目暮がビニール袋に入ったボールペンを西野に見せた。
「このボールペンは西野さん、あなたの物に間違いありませんね?」
“M・NISHINO”と書かれたそれに、西野は自分の物だと肯定する。
「でも、それがどうして寒川さんの部屋に?」
「遺体を発見したのはあなたでしたな?」
食事の支度が出来て呼びに行き発見したが、部屋には入っていないという西野。
アリバイを確認しても、部屋でシャワーを浴び、一休みしていて、証明する人物は居ない。
(西野さんが犯人かは分からないけど……今回の犯人が、キッドを…快斗を撃った可能性が高い…。)
柚希は、自分の手を握り締める力が強くなるのを感じた。
update 2015.01.20