「目暮警部!被害者の部屋を調べた所、ビデオテープが全部なくなっていました!」
「何っ?!」
「そうか、それで部屋を荒らしたんだな。」
高木の報告を受けた目暮と小五郎がそう言うのと同時にコナンが部屋の外へと駆けて行く。
小五郎が止めようとするのを制して蘭が追いかけるのに気付いた柚希は、周りに気付かれない程の小さなため息をついてから立ち上がる。
「柚希さん、何処へ?あまり出歩かない方が…」
「蘭って方向音痴なとこあるので、ミイラ取りがミイラにならないようにちょっと見てきます。」
そっと部屋を出ようとしているのに気づいて声をかけた高木にそう言って微笑むと、柚希は早めの足取りで部屋を出た。
jewel.38
〈痛む心が壊れる前に 13〉
見失ってしまったコナンを探し歩く蘭は、突然肩に置かれた手に驚きバッと飛び退く。
しかし、そこにいた白鳥の姿に安心すると構えていた腕を降ろした。
「蘭さん、銃を持った犯人がうろついてるかもしれません。皆さんの所に戻って下さい。」
「でも、コナンくんが…。」
「彼は僕が連れ戻しますから。任せて下さい。」
最初は渋った蘭も、白鳥にそう言われ部屋に戻る。
その白鳥の後ろにある無線電話のコーナーにいるコナンには、全く気付く素振りもなかった。
「あ、博士?俺だけど、大至急調べて欲しい事があるんだ!」
《何っ!?右目を撃つスナイパーじゃと?分かった、調べてみる!10分後にまた電話をくれ。》
阿笠博士との電話を一端終え、時計で時間を確認していると、コナンは強い視線を感じ、慌てて廊下に出て辺りを見渡すが何処にも人影はない。
(…気のせいか…?)
そのまま10分待ってから、人の気配が無いのを確認して再び博士に電話をかける。
《分かったぞ、新一!ICPOの犯罪データにアクセスした所、年齢不詳、性別不明の強盗が浮かんだ!その名は“スコーピオン”!》
蘭の後に部屋を出た柚希は、しばらく歩いてる内に向こうからやってくる蘭を見つけた。
「蘭!…あれ、コナンくん見つからなかった?」
「うん、途中で白鳥刑事に戻るように言われたの。コナンくんは任せてって。」
「そうなんだ…。私、トイレに寄ってから戻るから先に行っててくれる?」
分かった、と言って歩いて行く蘭を見つめてから、柚希は再び歩きだす。
(取りあえず、蘭に見つからなくて良かったけど…今度は白鳥刑事か。初めて会ったけど、ちょっと鋭そうだし心配だな。)
「柚希?」
「え?……やっと見つけた。」
名前を呼ぶ声に振り返ると、不思議そうな顔で見ているコナンの姿に、柚希は思わずため息をつく。
その様子に不服そうな顔になるコナンが何か言おうとする前に、柚希がそれを遮る。
「気を付けてって言ったばっかりなのに突っ走り過ぎ。此処から出てきたって事は誰かに何か調べてもらったの?」
「オメーは事件に首つっこむなって言っただろ?皆の所に戻るぞ。」
コナンに何も教える気が無いのを悟った柚希は、蘭の時と同じくトイレに寄るから先に戻るように言って別方向に歩きだす。
そしてコナンが去ったのを確認してから元の無線電話の場所へと戻った。
(…さっきの電話、どう聞いてもあのガキだったよな。)
変装して船に潜り込みながらも無線電話を盗聴している快斗は、さっき聞こえてきた電話の内容を思い出していた。
(色々ツッコミ所はあるけど……“新一”ってどういう事だよ。)
電話で阿笠博士がコナンの事を当然の様に“新一”と呼んだ事や、コナンの子供らしくない話し方とそれを普通に受け入れてる様子など、おかしな事が多すぎた。
それらが納得出来る状況として考えられるのは江戸川コナンの正体が工藤新一だという事。
(しっかし、流石にムチャクチャな話だろ…人間が幼児化するなんて……ん?)
そんな事を考えていると、新たに無線電話の音を盗聴器が拾う。
《博士?私、柚希だけど。》
《おぉ、今度は柚希くんか。どうしたんじゃ?》
《さっき新一から電話あったでしょ?》
《えっ?!あーいや、ワシの所には無かったが…》
(…また“新一”か。しかも柚希の言い方からしてやっぱり…)
快斗が考える間にも2人の会話は進む。
《さっき“今度は”って言ったよね?何を聞かれたの?》
《……右目を狙うスナイパーを調べてくれと言われたんじゃよ。結果、スコーピオンという犯罪者がヒットしたんじゃ。》
《スコーピオン……そいつがっ!》
《…柚希くん?》
《あ、ごめん何でもない。ありがとう博士。》
そこで切れた電話の音声に、快斗はしばらく考え込む。
(まだこの会話だけだと確信が持てないし、しばらくあのガキの様子を見てみるか。柚希の様子も気になるけど、今は下手に動けねぇし…)
快斗の手はグッと強く握り締められていた。
update 2015.01.24