「相変わらず鋭いなぁ…。心配してくれて嬉しいけど、今は気付かないフリして欲しいの。それに、全部話すとなると私だけの問題じゃなくなっちゃうんだ。ごめんね。」
(表面上は上手く隠してるけど、今にも泣きそうな顔じゃない…。)
その場を離れる柚希の後ろ姿を、灰原は心配そうな視線で追った。
jewel.42
〈痛む心が壊れる前に 17〉
小五郎が子ども達に中に入るなと言い聞かせる傍らで、セルゲイと白鳥は“寄る所があるから”と別行動を取った乾がまだ到着しないのを気にしていた。
そこで漸くやって来た乾が、車から降りる。
「やー、悪い悪い!準備に手間取ってな。」
「何です?その荷物…探検にでも行く気ですか?」
悪びれた様子も無い乾に呆れたように小五郎が言うと、備えあれば憂いなし、などと言ってニヤリと笑った。
「用心することね。スコーピオンは意外と身近に居るかもしれないわよ。」
隣に並んだ灰原にチラリと視線だけ向けると、コナンは口を開く。
「あぁ、分かってる。それより、柚希…オメーに何か言ってなかったか?」
「いいえ。何かがあったのはバレバレだけど…。」
「そうか…。なぁ灰原。」
周りに聞かれないよう、小さな声で話していたのがさらに小さくなり、灰原は不思議そうにコナンの方を見る。
「今回に限らず……今後もし柚希が、オメーに弱音を吐いたり相談したりしたら…その時は聞いてやってくれねぇか?俺には言えねぇだろうから。」
「…もちろんよ。」
少し表情を和らげて言った灰原に、コナンは小さく頼む、と呟いた。
後ろでその様子を見ていた蘭が悲しそうな顔をしているのには気付かないまま、城の中へと入る事になった。
沢部の案内で、西洋の甲冑等が飾られた騎士の間、夏美の祖母が一番気が休まると言って良く過ごしていたという絵画の飾られた貴婦人の間、そして様々な彫刻等が飾られた皇帝の間へと移動する。
そして乾がトイレに行くと部屋を出てしばらく経った時、突然大きな悲鳴が聞こえて一斉に声の方向へと走り出した。
−−バンッ
「?!」
「こりゃ一体?!」
勢い良く扉を開けた白鳥と小五郎に続いて柚希が部屋に入ると、上から吊された沢山のナイフや剣が、乾の頭上ギリギリで止まっている。
限界まで身を縮めた乾の手は、絵画の飾られていた壁から現れた、宝石の入った金庫の中に固定されていた。
「81年前、喜市様が作られた防犯装置です。この城には、まだ他にもいくつか仕掛けがありますから、ご注意下さい。」
沢部が言いながら乾に近付き、手首を固定している仕掛けを鍵で開けて解放する。
一方白鳥は、乾の荷物をチェックしている。
「つまり、抜け駆けは禁止って事ですよ、乾さん。道具は懐中電灯だけあれば十分でしょう。」
ピッキングツールやドリルなどの荷物の中から、懐中電灯だけを選び投げると、力が抜けた様子で座り込んでいる乾が受け取った。
その間、仕掛けを見つめて思案顔をしていたコナンが沢部に話しかける。
「ねえ、このお城に地下室は?」
「ありませんが…。」
「じゃあ1階にひいおじいさんの部屋は?」
「それでしたら、執務室がございます。」
「こちらには、喜市様のお写真と、当時の日常的な情景を撮影されたものが展示してあります。」
沢部に案内された執務室で、飾られた写真を各々見る中、柚希は不思議そうな顔をしてコナンに声を掛ける。
「居ないよね?」
「あぁ…。ねえ夏美さん!ひいおばあさんの写真は?」
「それがね、1枚も無いの…。だから私
曾祖母の顔は知らないんだ。」
丁度同じ事を考えていたらしいコナンが夏美に聞いてみたものの、疑問は解決しないまま。
すると、別の位置で写真を見ていた乾が声をあげる。
「おい!この男、ラスプーチンじゃねぇか?」
「えぇ、彼に間違いありません。ゲー・ラスプーチンとサインもありますからね。」
「お父さん、ラスプーチンって?」
「い、いや、俺も世紀の大悪党だったって事位しか…。」
乾とセルゲイの会話に、蘭が初めて聞く名を小五郎に尋ねるが、良く知らないらしく斜め上を向いてしまう。
「奴はな、快僧ラスプーチンと呼ばれ、皇帝一家に取り入って、ロマノフ王朝滅亡の原因を作った男だ。一時、権勢を欲しいままにしたが、最後は皇帝の親戚筋にあたるユスポフ公爵に殺害されたんだ。川から発見された遺体は頭蓋骨が陥没し、片方の目が潰れていたそうだぜ…。」
(片方の目が…?)
(それって、まるで…)
「乾さん、今はラスプーチンより、もう1つのエッグです!」
乾の話にコナンと柚希は引っかかりを感じていたが、白鳥がその話を遮った。
update 2015.02.10