「エッグって言ってもなぁ、こんな広い家の中から、どうやって探しゃ良いんだ?」
そう言う小五郎の手元にふと視線を落とした柚希は、タバコの煙からあることに気付く。
「あの、おじさ…」
「おじさん!ちょっと貸して!」
(あーもう…少しは抑えてよ……)
柚希の言葉を遮り、小五郎のタバコを奪い取ったコナンに、思わずため息と共に頭を抑えた。
jewel.43
〈痛む心が壊れる前に 18〉
「下から風が来てる!この下に秘密の地下室があるんだよ!」
「何っ?!」
コナンはタバコを床に近付け、煙の動きを確認すると、スッと差し出された灰皿に押し付けて火を消す。
「…とすると……カラクリ好きの喜市さんの事だから、きっと何処かにスイッチがあるはず…。」
(待って。…ちょっと待ってよ、新一気付いてないの?!)
さっきタイミング良く灰皿を差し出したのは蘭だ。
その行動は、普通に考えればすぐにおかしいと分かる筈なのに、コナンは何も気付かず床を調べている。
そして僅かな隙間を見つけると、床板がパカッと外れ、文字を入力する装置が現れた。
「何だそれは!」
「ロシア語のアルファベット!」
「それで秘密の地下室へのドアが開くのか?!」
「パスワードがあると思うよ。セルゲイさん、ロシア語で押してみて!」
「あぁ。」
驚き興奮する大人達を冷静に仕切るコナン。
蘭、白鳥、柚希の3人以外、そこに疑問を覚える事なくパスワードの言葉に集中している。
「思い出…“ボスポミナーニエ”に違いない!」
「ボ・ス・ポ・ミ・ナー・ニ・エ…」
「……。」
小五郎の予想は外れらしく、何の反応もない事に恥ずかしそうにしている。
すかさず乾が自信たっぷりに口を開く。
「じゃあ、キイチ・コーサカだ!」
「キ・イ・チ・コ・ー・サ・カ…」
「…何も起きねえぞ。」
他に思い付く言葉も特に無く、セルゲイは夏美の方を振り返る。
「夏美さん、何か伝え聞いている言葉はありませんか?」
「いいえ、何も…。」
「“バルシェ、ニクカッタベカ”…。」
「…え?!」
「夏美さんが言ってたあの言葉、ロシア語かもしれないよ!」
コナンの言葉に夏美が目を見開く。
聞き覚えの無い内容に小五郎が何の話だ、と口を挟むが、蘭に黙ってと強く言われ怖じ気づいてしまった。
(これは…私が下手にフォローしたら逆に怪しまれるかも。)
蘭の様子から、既に疑いを通り越して確信を持とうとしているのを感じた柚希は、これ以上のコナンのフォローを諦めると、黙って様子を見ることにする。
「夏美さん、バルシェ…何ですか?」
「ニクカッタベカ…。」
「バルシェ…ニクカッタベカ…?」
「もしかしたら、切る所が違うのかも。」
「バル、シェニ、クカッタ…ベカ……。うーん……バルシェニ…」
コナンの指摘に、セルゲイが言葉をバラして必死に考えるが思い付かずに頭を抱える。
そこにふと青蘭が口を開いた。
「それ、“ヴァルシェーブニック、カンツァーベカ”じゃないかしら?」
「そうか!“ヴァルシェーブニックカンツァーベカ”だ!英語だと“The Last Wizard Of The Century”!えーと日本語では…」
「…“世紀末の魔術師”!」
「「え?!」」
青蘭の声にコナンと柚希が目を見開くが、小五郎はすぐにピンと来ないらしく考え込んでいる。
「世紀末の魔術師…?どっかで聞いたような…。」
「キッドの予告状よ!」
「そうだ!こりゃ、とんだ偶然だな…。」
(偶然なんかじゃない。快斗は知ってたんだ、これがエッグに関係あるキーワードだって。)
柚希は服の上からネックレスを握りしめる。
「とにかく押してみましょう!」
そう言ってセルゲイが“ヴァルシェーブニックカンツァーベカ”と入力すると、大きな音と共に床板の一部が動き出す。
固唾を飲んで見守る中、床に現れたのは地下へと続く階段。
「でかしたぞボウズ!」
乾がコナンにそう叫ぶと、コナンは不敵な笑みを浮かべた。
(この先にエッグが…。そこまで行けば、スコーピオンも姿を現すかもしれない…。)
地下への階段を下りながら、柚希はスカート越しに右の太ももにそっと触れ、以前博士に貰ったブレードの存在を確かめた。
update 2015.02.14