「ちょっと工藤くん、あれどういう事?」
「分からねぇ。けど、嫌な予感がする……頼んで良いか?」
囁くような声での会話。
灰原は小さくため息をつくと、一応やるだけやってみるわ…、と呟き前を歩く柚希を見つめた。
jewel.45
〈痛む心が壊れる前に 20〉
「「「らら〜ら〜らららぁ〜ら!!」」」
小五郎達と合流し、先頭を進む白鳥の後ろで少年探偵団の3人が楽しそうに歌いながら進んで行くのを、小五郎は呆れかえった目で見ている。
そこからさらに距離を置いた一番後ろで、柚希は灰原と並んで歩いていた。
「それで、あなた本当にどうしたの?」
「どうもしてないよ。」
「…キッドが撃たれて行方不明だって話は、江戸川くんから聞いたわ。」
「……。」
声を潜めてはいるものの、万が一を考え“工藤くん”とは言わない灰原の言葉に、柚希は何の反応も見せない。
「別に、あなたと彼に何があるかなんて、聞くつもりは無いわ。でもね、子供達ですら感じるほど様子がおかしいのは、流石に放っておけないのよ。柚希、あなた何を考えてるの?」
「…私は、やるべき事……ううん、したい事をしようとしてるだけだよ。例えそれが…何の意味もない事だとしても。」
「……柚希?」
こちらを見ようともしないその瞳は、何の色も映していないように見えて、灰原は眉を寄せる。
「あれ?」
「行き止まり…。」
前方から聞こえた声に視線を移すと、先の無い通路に皆立ち止まっている。
灰原がコナンの横に並ぶと、チラッと向けてくる視線に小さく首を横に振る。
それを確認したコナンが心配そうな目で柚希を見るが、それも一瞬の事ですぐに目の前の壁に視線を戻した。
「通路をどこかで間違えたのかしら?」
「そんなハズはありません。通路は一本道でしたから。」
(てことは、此処にも何か仕掛けが…?)
コナンがじっと壁を見つめると、ライトに照らされた壁に描かれた絵を見て歩美が声を上げる。
「わあっ!鳥がいっぱい!!」
「あれ?変ですね…。大きな鳥だけ、頭が2つありますよ!」
「双頭の鷲…皇帝の紋章ね。」
「あぁ。王冠の後ろにあるのは太陽か。……太陽……光…、もしかしたら…」
灰原の言葉に少し考えた後、何か思い付いたのかコナンは白鳥の名前を呼ぶ。
「あの双頭の鷲の王冠に、ライトの光を細くして当ててみて!」
「あ、あぁ。」
白鳥が言われた通り懐中電灯の光を細く絞って当てると、王冠の宝石部分が光り、辺りに轟音が響く。
壁の目の前の床が少しずつ下に降りているのを確認して、白鳥は皆に後ろに下がるように言う。
「…入り口!なるほど……この王冠には、光度計が組み込まれているって訳か。……わっ!」
光を当て続けながら白鳥が感心していると、その足元が左右に動き出す。
動きの止まったそこには、先程現れた入り口への階段が出来上がった。
「スッゲー!!」
「な、何て仕掛けだ…。」
口々に驚きの声を上げる中、柚希はスタスタとその階段を降りようと歩き出す。
しかし、降りる手前で腕を掴まれ、その手の主である白鳥を振り返る。
「柚希さん、この先に何があるか分からない。危険ですから私の後ろに居て下さい。」
「いえ、大丈夫なので…………分かりました。」
何故か凄く真剣な目で訴えられてしまい、柚希は渋々といった様子で白鳥の後ろを歩きだした。
「まるで卵の中みたい…。」
入り口の先には円形のドーム状の形をした部屋が広がり、歩美が可愛い感想を漏らした。
中央にある何かの台をコナンが気にしている間に、白鳥と小五郎が蝋燭に火を灯すと、部屋全体が淡く照らされる。
2人は奥に作られた、まるで祭壇のような場所に置かれた四角い箱に近付く。
「棺のようですね。」
「造りは西洋風だが、桐で作られている…。それにしても、でっかい錠だな。」
「あっ!夏美さん、あの鍵!!」
「え?…そっか!」
下で見ていたコナンが夏美に声を掛けると、思い出したように鞄から取り出したあの大きな古びた鍵を、棺の錠に差し込む。
そのまま抵抗無くカチャッと音を立てて鍵が回ると、錠が外れた。
「この鍵だったのね…。」
「開けてもよろしいですか?」
「は、はい。」
夏美に確認を取ってから小五郎が棺に手を掛ける。
ゴゴッと重たい音と共に埃が舞い、少しずつフタが開かれると、光で照らされた中を確認する。
「遺骨が1体…それにエッグだ!エッグを抱くようにして眠っている。…夏美さん、この遺骨はひいおじいさんの…?」
「いえ…多分、曾祖母のものだと思います。横須賀に曾祖父の墓だけあって、ずっと不思議に思っていたんです。もしかすると、ロシア人だった為に、先祖代々の墓には葬れなかったのかもしれません…。」
夏美の話を聞きながら、セルゲイと青蘭が棺の方へと歩いて来る。
「夏美さん、こんな時にとは思いますが、エッグを見せて頂けないでしょうか?」
セルゲイの言葉に、はい…と言って夏美はエッグを手に取った。
update 2015.02.24
revision 2015.12.09