「どうぞ。」
「底には小さな穴が空いていますね…。」
夏美からエッグを受け取ったセルゲイは、赤色に装飾が施されている外面をチェックした後、そっとフタを開く。
「…え?!カラッポ?!」
「どういう事かしら?」
「それ、マトリョーシカなの?」
中身のないエッグを覗き込み不思議そうな顔をしている大人達に、歩美の無邪気な声が響いた。
jewel.46
〈痛む心が壊れる前に 21〉
歩美の言葉に目を見開いている大人達を気にする事無く、歩美は続ける。
「私んちにその人形あるよ。お父さんの友達が、ロシアからお土産に買ってきてくれたの。」
「…何だ?その、マト…リョーシカって?」
「人形の中に小さな人形が次々入っている、ロシアの民芸品です。」
頭にハテナを浮かべる小五郎に青蘭が説明すると、セルゲイがエッグの中をもう1度確認する。
「確かにそうかもしれません。…見て下さい。中の溝は、入れたエッグを動かないように固定する為のもののようです。」
「クソッ!あのエッグがありゃ、確かめられるんだが!」
「エッグならありますよ…」
「「「?!」」」
聞こえてきた思いも寄らぬ言葉に、皆が目を見開き声の主を見ると、白鳥が抱えていた鞄の中から見覚えのある緑色のエッグを取り出す。
「こんな事もあろうかと、鈴木会長から借りて来たんです。」
「お前…黙って借りて来たんじゃねぇだろうな?」
「や、やだなぁ…そんなハズないじゃありませんか…。」
小五郎に詰め寄られ苦笑する白鳥からエッグを受け取ったセルゲイは、早速赤いエッグに入れて試してみる。
「ピッタリだ!」
「つまり、喜市さんは2つのエッグを別々に作ったんじゃなく、2個で1個のエッグを作ったんですね。」
「…不満そうね。」
スッキリしない表情でエッグを見つめるコナンに、灰原が隣で問い掛ける。
「あぁ…あのエッグには、何かもっと仕掛けがあるような気がしてならねえ。それこそ“世紀末の魔術師”の名にふさわしい仕掛けが…。」
「…ねえコナン君。大阪でエッグを見せて貰った時に、言おうとして途中になっちゃったけど…どうして“本を見てるのが思い出”かは分かったの?」
「え?いや、分かんねえけど…。」
いつの間にか灰原とは反対側の隣にいた柚希に驚きながらコナンが答えると、柚希はボソッと小さな声で呟く。
「“アルバム”…。それと、あの部屋の写真。」
「え…。」
「まぁ、仕掛け自体は私にはさっぱりだけどね…。」
「お、おい…」
言うだけ言って歩き出す柚希に声を掛けようとするが、聞こえてきた小五郎と夏美の会話にコナンは振り向く。
「それにしても、見事なダイヤですなぁ。」
「いえ、ダイヤじゃないみたいですよ。」
「…え?」
「ただのガラスじゃないかしら、これ。」
(…ガラス?!)
一瞬目を見開いたコナンは、真剣な表情で考え込む。
(待てよ…そう言えば、エッグのフタの裏のガラス……あの時柚希は電話で席を外してたから、あの装飾がガラスだと知らないのか。そして柚希の言った“あの部屋の写真”は喜市さんの部屋の写真の事……地下の光と仕掛け……そして、あの台!)
この部屋に来て最初に気になっていた、中央の台を振り返り見つめる。
(間違いない!エッグのガラスはレンズの役割をする為のものだ!)
コナンが考えている間、柚希は部屋の入り口から外をそっと伺った後、奥にいる人達に視線を向ける。
(やっぱり、スコーピオンはあの中の誰か…?そうなると、エッグの秘密が分かるまでは手は出してこない……か。)
壁に背中を預けてふぅ、と息を吐いた。
普段よりも僅かだが自分の呼吸が荒い事に気付かないフリをした柚希は、コナンがセルゲイに“エッグを貸して”と駆け寄るのを見て、無意識に服の上から握り締めていたネックレスをそっと離す。
(新一、仕掛けが分かったんだ。)
コナンはエッグを持って部屋の中央にある台に近付くと、白鳥に光を細くしたライトをその台の中に入れるよう指示した。
「セルゲイさん、青蘭さん!蝋燭の火を消して!」
蝋燭が消え暗くなった部屋で、上へと真っ直ぐ伸びるライトの光だけが周りを僅かに照らす。
「一体何をやろうってんだ?」
「まぁ見てて。」
小五郎に一言そう言うと、コナンは光の上にエッグを乗せた。
すると、下から光を受けたエッグはポウ…と淡く光りながら中が透けて見えてくる。
「ネジも巻かないのに、皇帝一家の人形がせり上がっている!」
「エッグの内部に、光度計がくみこまれているんですよ。」
人形がせり上がり本を開くと、複雑で絶妙な反射角で沢山の光の線がガラスを繋いでいく。
そして、エッグのてっぺんから光が放たれると、光の先、部屋の上の方の壁を見て全員が驚きと感嘆の声を上げた。
update 2015.02.28