「ニ、ニコライ皇帝一家の写真です!」
「そうか…エッグの中の人形が見ていたのは、ただの本じゃなく…」
「アルバム…。」
天井近くの壁に360度ぐるりと一周するように何本も放たれた光は、その壁に様々なニコライ皇帝一家の写真を映し出した。
jewel.47
〈痛む心が壊れる前に 22〉
「だから“メモリーズ・エッグ”だったって訳か…。」
(そしてアイツはその事に気付いてたのか……ん?)
コナンが柚希に視線を向けると、写真を見ていた顔が僅かに驚きを見せ、もう1枚の写真に視線を向けてから、すぐに夏美をじっと見つめている。
「もし皇帝一家が殺害されずに、このエッグを手にしていたら…これほど素晴らしいプレゼントはなかったでしょう。」
「まさに、世紀末の魔術師だったんですな…あなたのひいおじいさんは。」
「それを聞いて、曾祖父も喜んでいる事と思います。」
セルゲイや小五郎の話を聞きながら、コナンが先程柚希が見ていた辺りの写真を見つめていると、見覚えのある人物を見つける。
「ねえ夏美さん…あの写真、夏美さんのひいおじいさんじゃない?」
「……え?」
「あの2人で椅子に腰掛けて映ってる写真。」
「ホントだわ!じゃ、一緒に映っているのは、曾祖母ね!…あれがひいおばあさま…やっとお顔が見られた。」
嬉しそうに写真を見つめる夏美に、沢部も微笑みながら写真に目を向ける。
「あの写真だけ日本で撮られたのですね。後から喜市様が加えられたのでしょう。」
(あれっ?この人…)
2人の写真を見ていたコナンはふと何かに気付いたように、その写真と4姉妹の写っている写真、そして夏美の顔を見比べる。
(似てる…夏美さんと……もしかして柚希も同じ事を?)
スウッと光が弱くなり収まると、セルゲイは台からエッグを外し夏美の方へ向く。
「このエッグは喜市さんの…いえ、日本の偉大な遺産のようだ。ロシアは、この所有権を中のエッグ共々放棄します。あなたが持ってこそ、価値があるようです。」
「ありがとうございます。…あ、でも中のエッグは鈴木会長の…」
「鈴木会長には私が話してあげましょう。きっと分かってくれますよ。」
小五郎の言葉に、夏美は安心したように微笑んだ。
(アルバムの予想は合ってたし、喜市さんの部屋にも何処にも、夏美さんのひいおばあさんの写真が無かった理由も分かった。でも、何か引っかかる………)
夏美がエッグを受け取っている横で、コナンと灰原がコソコソと話しているのを見つめながら、柚希は考えを巡らせる。
(…っ!…そういえばあの部屋にはあったのに、エッグのアルバムには“ラスプーチン”の写ってる写真が無かった…………あれ、ラスプーチン……って、何処か別の所で聞いたような……)
「危ない!!」
「っ!?」
突然聞こえたコナンの声にハッと顔を上げると、コナンの投げた懐中電灯を避けた小五郎が尻餅をつく。
同時に聞こえた銃声に柚希は目を見開くが、サイレンサーを付けている為、小五郎達はまだ気付いていない。
その時、視界に懐中電灯を拾おうとしゃがむ蘭の姿が見えた。
「拾うな!蘭!!」
「蘭ダメっ!!」
「…え?」
「らあぁぁぁん!!」
(新一…っ)
コナンが蘭に飛び付く形でその場から避けさせると、ギリギリの所で通過した銃弾が壁に当たり音を立てる。
「みんな伏せてっ!」
柚希の大きな声に、伏せるどころかパニックになった子供達が、声を上げて走り出す。
同じく駆け出した夏美は石畳に足を取られ転んでしまい、その手からこぼれ落ちたエッグがカランと音を立てて床を転がる。
「あっ!エッグが!」
「大丈夫!」
近くにいた柚希がスッとしゃがんでエッグに手を伸ばす。
−−チャキッ
「……。」
「それを持ったまま出口へ走れ。」
後頭部に感じた銃口に柚希は目を細めると、低い声で言われた言葉に気付かれない程度のため息をつく。
早くしろと言わんばかりに銃口を押しつけられた柚希は、そっと立ち上がるとエッグを抱えたまま出口へと向かって走り出した。
((クソッ柚希を人質にするつもりか!))
「逃がすかよ!」
「毛利さん、後を頼みます!」
同時に同じ事を考えたコナンと白鳥が、それぞれ追う為に走り出す。
(新一……やっぱり…)
蘭は自分の中でほぼ確信しようとしていたコナン=新一という考えが、さっきの銃弾から守ろうとしてくれた姿と、柚希を助ける為に迷いなく走り出した様子から、決定的だと感じていた。
update 2015.03.04