銃口を向けられたまま、柚希は元来た道を走って進んで行く。
気付かれない程度に後ろの様子を数度窺っていると、壁際に何かを置いたのが見えた。
(あれは…手榴弾?……っ!)
足元に現れた何かに躓き転びそうになるのを、何とかこらえて振り返る。
(…乾さん!!)
「行け!」
躓いたのが乾の遺体だと気付き目を見開くと、背中に銃口を押し付けられる。
再び走り出して少しした時、後方から爆発音が聞こえてきた。
(さっきの手榴弾で道を塞いだんだ。……あの位置なら、皆は哀達が入ってきた所から逃げられるはず。後は追って来てるだろう新一が巻き込まれてなければ良いんだけど…)
jewel.48
〈痛む心が壊れる前に 23〉
爆発の間際、道が塞がる前にギリギリ通れたコナンは、躓いた乾の遺体に目を見開きつつも急いで犯人を追い続ける。
(柚希…取りあえず此処を出るまでは、逃げる足枷になるような怪我はさせられないとは思うが……)
−− 危険なんて関係ない。私には…理由があるの。
感情の感じられない表情で言った柚希の言葉を思い出し、コナンは顔を曇らせる。
(…俺が行くまで、大人しくしててくれよっ!)
「エッグを渡せ。」
「……。」
喜市の部屋に戻り隠し通路の扉を閉めると、冷たい目で睨む柚希からエッグを受け取り、再び銃口を向けながら歩かせる。
進んだ先に置いてある、灯油が入っているであろうポリタンクを指差し、撒くように指示された柚希は、黙って廊下に撒いて行く。
横目でチラッと様子を窺うと、肩に掛けている鞄を広げてエッグを仕舞っている。
「万が一追い掛けて来られた時の為にお前を連れて来たけど、必要無かったようだね。」
そう言ってフッと笑うと、マッチで撒いた灯油に火を放つ。
「こっちへ来い。」
(人質としての必要が無くなったって事は、此処で私も殺すつもりだ……さっき見えたロープで縛って置き去りにするつもりなら、一度拳銃を手放すか、そうでなくてもロープを手に取る時に一瞬隙が出来るはず…)
「ここで城と一緒に焼けてもらうよ。」
変わらず銃口を向けながらゆっくり近付くと、そう言って柚希の両腕を背中の方に回す。
ロープを手にする為に両手首を片手に持ち替えようとした所で、柚希はスッと目を細める。
(此処だ!)
「ちょっと待ったぁ!!」
掴まれた腕を振り解こうとした瞬間、何処からか叫ばれた声に驚いて柚希の動きが止まる。
(おじさんの声?!もしかして…)
「テメエだけ逃げようったって、そうは問屋が卸さねーぜ!」
小五郎の声に驚き、柚希を引っ張り物陰に隠れると、次に聞こえたのは白鳥の声。
「アンタの正体は分かっている!中国人のふりをしているが、実はロシア人だ!」
銃口を押し付けられた柚希は、声の主を探そうとキョロキョロしている様子を横目に見ながら、小さく深呼吸をする。
「そうだろ?快僧ラスプーチンの末裔………青蘭さん!」
「……。」
正体を言い当てられた青蘭は、柚希の首もとに後ろから腕を回すと、銃口を頭に押し付けた状態で連れて、口元に笑みを浮かべながら物陰から出る。
周りを警戒しながらゆっくりと歩き出すと、後ろを走り抜ける足音が聞こえ、青蘭は振り返りざまに銃を2発撃つ。
「…フン!最初は気付かなかったよ…。」
「その声は寒川?!」
「浦思青蘭の中国名、プース・チンランを並び替えると、ラスプーチンになるなんてことはな!」
「お、お前は…お前は私が殺したはず!」
(プース・チンラン…なる程、引っ掛かってたのはそれか…)
寒川の声に目を見開いて驚く青蘭とは真逆に、柚希は疑問が1つ解決した事で満足そうな笑みを浮かべる。
焦った様子で周りを見る青蘭の後ろで、突然立っていた鎧がぐらつき、そこに向けて発砲するも残っているのは空の鎧のみ。
それに気を取られている間にまた別の方向から足音が聞こえ、慌ててそちらに発砲するが物陰に隠れる方が早く、再び白鳥の声が聞こえてくる。
「ロマノフ王朝の財宝は本来、皇帝一家と繋がりの深いラスプーチンの物になるはずだった。そう考えたアンタは、先祖になり代わり、財宝の全てを手に入れようと考えたんだ。」
「執拗に右目を狙うのも、惨殺された祖先の無念を晴らすためだろう?」
「い…乾!」
寒川と同じく自分が殺したはずの乾の声に青蘭が戸惑っていると、それまで隠れていた人影が現れた。
update 2015.03.07