「はよー」
「お、快斗!聞いたか?転入生の話!」
教室に入った途端、クラスメイトに振られた知らない話題に、眠そうにしながらも快斗は食いつく。
「何、転入生来んの?うちのクラス?」
「そうだぜ!女の子!見かけた奴が超可愛いって騒いでたんだ!」
「へー!そりゃ楽しみ」
とてもテンション高く話してくる横で、ニッと笑ってそう言うと、後ろから疑問の声が上がる。
「えー!快斗にはあの子が居るじゃない!」
「何々?!“あの子”って誰の事だよっ!」
青子の言葉に快斗が答える間もなく、周りが騒ぎ出した。
「快斗ったらね、小学生の時に一目惚れしたきり一度も会えてない女の子の事、ずーっと想ってるの!」
「ちょ、青子!余計な事言うんじゃねー!」
「そういや、快斗って女好きに見えるくせに、女子に構ったりって実はしねぇよな?」
焦る快斗に構わず、どんどん盛り上がって行く。
「快斗くんってすごい一途なんだね!」
「信じらんねーけどな!」
「うるせー!」
「さてと、何か質問ある?」
職員室で担任の教師から色々説明を受けた柚希は、一つだけ、と口を開いた。
「教科書だけ在庫切れで用意出来なくて…」
「あぁ、聞いてるわ。明後日には学校に届くから、それまで隣の子に見せて貰ってね。問題児ではあるけど、悪い子じゃないから。」
「…?分かりました。」
じゃあ行こうか、と担任に連れられ教室の前まで行くと、呼ぶまで外で待つように言われる。
「先に紹介すると、話聞かないと思うから、ごめんね。」
そう言い残して教室の扉を開けると、慌てて席に着く音がガタガタと聞こえてきた。
(同じ学校の可能性すら低いのに、さすがに同じクラスなんて奇跡はないよね…“かいとくん”)
担任が連絡事項を話す間にも、転入生はー?等と聞こえて来て、結局集中出来ていない事に少し笑ってしまう。
「工藤さん、入って。」
担任の声に、ガラッとドアを開けて入ると、教室内が一気にざわつくのが分かる。
「工藤柚希です。よろしくお願いします。」
そう言って軽く頭を下げると、可愛い、綺麗、と言った声が聞こえてくる。
「手続きやら諸々の事情で始業式には間に合わなかったけど、分からない事は教えてあげてね。」
担任の声を聞きながら、柚希はザッと教室内を見渡して、自分の席であろう空いている席に目を止める。
(顔、見えないな)
見つけた空席の隣、窓際の席の男の子は、ぼーっと窓の外を眺めていて顔が見えない。
担任の言っていた“問題児ではあるけど、悪い子ではない”彼に、不思議と懐かしい感じを覚えた気がしたが、自分の紹介をしてくれている担任の言葉に意識を戻す。
「では、工藤さんの席はそこの黒羽君の隣ね。…黒羽くん!」
快斗は、いきなり大声で呼ばれてビクッとする。
担任が入って来たまでは覚えているが、さっき青子達に言われたあの子の事を思い出してぼーっとしている内に、例の転入生の紹介まで終わっていたようだ。
(ま、あの“ゆずきちゃん”が転入生だなんて、そんな奇跡あるはずねーよ)
そう納得してから、快斗は前を向いた。
(え…?嘘でしょ?)
(は…?嘘だろ?)
「黒羽君、教科書が届くまで工藤さんに見せてあげてね。」
そんな担任の言葉は2人には聞こえていない。
《目が合った瞬間、時間が止まったかと思った》
jewel.5
〈待ちわびた再会〉
「工藤さん?」
「あ、はい!」
担任に声を掛けられ、慌てて席へ移動する。
「あの…よろしく、黒羽くん。教科書を見せて貰いたいから…」
「あ、あぁ!…よろしくな」
席に座って、ぎこちなく挨拶する柚希に、快斗も慌てて返事をして机をくっつけようとする。
しかし、HRが終わった事でクラス中が柚希の周りに集まってしまい、快斗と柚希の思いも関係なく授業が始まるまで全く顔も見えない状況に終わった。
(どうしよう…絶対“かいとくん”だ!)
(マジで“ゆずきちゃん”だよ…俺の事覚えてっかな)
update 2014.10.08