((……もう6限目か))
授業開始を告げるチャイムを聞きながら、柚希と快斗は心の中で溜息をついた。
jewel.6
〈待ちわびた再会 2〉
「工藤さん、アメリカから来たんでしょ?!」
「うん、そうだけど、向こうに居たのは約1年だけだから、英語ペラペラとかは期待しないでね?」
「前は何処に住んでたの?」
「米花町の方だよ。」
「兄弟とか居るの?」
「うん、兄が一人。」
「へー!いくつ上?」
「1つ上だけど、学年は一緒なの。」
「えっ?!何それ?」
「兄が5月生まれで、私が翌年の3月30日だから、ギリギリ同学年になっちゃって…。」
「へー!そんな事あるんだね!」
休み時間になる度に、クラス中殆どの生徒が集まり、有無を言わさず快斗の机をどけて柚希を囲んで質問責め。
授業が始まる瞬間まで解放されない為、柚希と快斗は未だにまともな会話が出来ないまま午後の授業を迎えてしまった。
(転入生の宿命とはいえ、ここまでとは思わなかったな…)
小さく溜息をつく柚希に気付いた快斗は、心配そうに隣の様子を伺う。
(笑顔では居るけど、朝からあんなで流石に疲れるよな。てか、俺殆ど話せてねーじゃん…)
せっかく隣の席だというのに、話す機会の無さに落ち込む快斗は、2人の机の間に置かれている教科書をぼーっと見つめる。
(唯一の接点がこの教科書じゃな。……ん?そうか!)
快斗はニッと笑い、ペンを持つと教科書の空きスペースに何か書き始めた。
その様子に気付いた柚希は、不思議そうにそれを見る。
(…………!)
書き終わった快斗の手が退いて見えた字に、柚希は思わず快斗の顔を見る。
『会話の手段発見!授業の邪魔じゃなければだけど』
ニッと笑う快斗に柚希も笑うと、別のスペースにペンを走らせる。
『ホントだ!邪魔じゃないし、むしろ嬉しい!全然話せなかったから』
柚希の返答に快斗は心の中でガッツポーズをし、再び文字を書く。
『ちゃんと自己紹介出来てなかったよな。俺は黒』
……ツンツン
名前を書き始めた所で、その手を指でつつかれ、快斗は驚いて手を止めた。
そして柚希が書いた字を見て目を見開く。
『かいとくん』
今日まだ名乗ってないはずの自分の名前に、柚希の方を見ると、俯いて顔は見えないが、髪の間から覗く耳が心なしか赤く見える。
『もしかして、覚えてる?』
『うん』
恐る恐る聞いてみると、すぐに肯定の返事が返ってきて、快斗は自分の鼓動が早くなるのを感じた。
『もし、良かったら』
一瞬躊躇った後、一気に続きを書く。
『今日の帰り、何処かで話さねーか?』
(!!)
思いも寄らぬ快斗からの誘いに柚希は驚き、返事をするのも忘れてしまう。
『質問責めで疲れてれば、今日じゃなくても』
『行きたい!』
返事が無いのを悩んでると勘違いした快斗が書いた文に気付いた柚希は、急いでそう書いた。
『じゃ、約束な』
そこまで書いて、快斗は柚希がさっき書いた自分の名前の下に手を持って行く。
『快斗 呼び捨てで良いから』
初めて知った漢字での名前に、柚希は嬉しさで心がギューッとなるのを感じる。
『ゆずきちゃんは?』
『柚希 私も呼び捨てで良いよ』
『了解!』
そして、HRが終わり放課後になった途端、柚希の周りは再び人でいっぱいになる。
「工藤さん!帰り一緒に何処か行かない?」
「この辺案内するよ!」
誰が言ったのかも分からない位のお誘いの嵐に柚希はさすがに苦笑する。
「誘ってくれるのは嬉しいんだけど、先約があるからごめんなさい。」
「もしかして、帝丹の友達?」
「待ち合わせの場所まで送ろうか?」
完全に断ったつもりが、予想外の反応に一瞬怯むが、大事な約束の為、柚希はしっかり皆に聞こえるように言った。
「そうじゃなくて、“快斗”と一緒に帰る約束してるの。」
「そーそー!“柚希”は俺と約束してるから、皆とは帰れませーん。」
柚希の言葉にどよめく周りを掻き分けるように現れた快斗は、そう言って柚希の腕を掴む。
「じゃ、そういう事で!」
そのまま掴んだ腕を引いて、柚希を連れ教室を出て行った快斗に、クラスメイト達はポカンとしてしばらく何も言えずに立ち尽くしていた。
update 2014.10.10