薔薇と宝石の約束




あれ…力が入らない……

どうして息が苦しいんだろう…

目の前に

こんなにも憎い人がいるのに……



私の

何よりも大切な人を傷つけた奴が

目の前にいるのに……



あぁ…

銃口がこっちを向いてる……

私…ここで死ぬのかな……




快斗…


やっと会えたのに…何も伝えられなかった……










「柚希っ!!!」




jewel.50
〈痛む心が壊れる前に 25〉







(柚希?!くそっ…間に合えっ!!)


崩れ落ちる柚希の姿に驚きつつ、コナンは落ちている鎧の頭を蹴る脚に力を込める。
鎧は凄いスピードで飛んで行くが、既に銃口は柚希に向いている。


(間に合ってくれ!)


そう思った瞬間、青蘭の手元の銃が何かに弾かれる。
そしてその直後に鎧が命中して、青蘭は倒れ込み気を失った。


「柚希っ!大丈夫か?!」

「ごめ…急に目眩がしたみたいで……ありがとう新一。」


急いで柚希に駆け寄ると、倒れている青蘭を見てから、少し荒い息でそう言った。


「いや、さっきのは……」

「柚希さん!コナン君、大丈夫かい?!」

「う、うん…。」


コナンは先程聞こえた気がした声を思い出しながら何か言いかけたが、白鳥が駆け寄って来て慌てて口を噤む。
そして、視線を床に刺さったトランプのカードに向けるが、火が燃え移ってすぐに燃え尽きてしまった。


「……。」

「さぁ、ここから脱出するんだ!…柚希さん、立てますか?」

「あ…大丈夫です、自分で…。白鳥さんには、あの人を運んでもらわないと…。」

「……えぇ、そうですね。」


ゆっくりと立ち上がりながら、柚希が青蘭に視線を向けると、白鳥はどこか煮え切らない様子で気絶した青蘭を抱える。


「コナン君。…柚希さんを、支えてあげられるかい?」

「…うん!」


カードの刺さっていた所を見つめるコナンに声を掛けると、白鳥は僅かに複雑な表情をしながら柚希の事を頼む。
そして燃え盛る炎の中、急いで出口へと向かった。










「お前は此処で休んでろ。」

「うん…。」


無事に城の外へ出ると、壁にもたれるように柚希を座らせ、コナンは小さな声で言った。
普段より呼吸の荒い柚希に、心配そうな視線を送ってから、少し離れた所からこちらを見ている白鳥の方へと歩き出す。


「柚希さんは?」

「休んでるから大丈夫だよ。白鳥刑事は青蘭さんを連行するんでしょ?」

「あぁ。一緒に柚希さんを家まで送るよ。体調が悪いなら早く帰った方が良いだろうからね。」

「いや…柚希ねーちゃんは、博士か小五郎のおじさんが送るから大丈夫だよ。」

(やっぱり気付いてたか…。)


鋭い視線を向けながら言うコナンに、内心ため息をつくと、柚希の事は仕方なく任せる事にする。


「そうかい?じゃあ先に行くから、毛利さん達によろしく。」

「…今の柚希とそいつを、一緒に居させるのはまずいんだ。」

「?!」


白鳥が歩き出した時、コナンが小さく呟くのが聞こえて振り返るが、既に反対方向へと歩き出していた。










青蘭を車の後部座席に寝かせてドアを閉じようとした白鳥は、背後に気配を感じて振り返る。


「柚希さん?!駄目ですよ、ちゃんと休んでいないと…。」

「私……許せないんです。」

「…柚希さん?」


柚希の様子に、体調の悪さとは別の違和感を覚えた白鳥がそっと声を掛けるが、その瞳は何も写していないように見えてどこか不安を煽る。


「この人は…逮捕されて、罪を償う事になる。…でも、それじゃ納得いかないんです。」

「納得いかないとは…?」

「この人…こいつはっ……私の、大切な人を傷つけたっ!」

(!!)


まるで無表情だった柚希の瞳から、突然涙が溢れ出すのを見て白鳥は驚く。


「見つけ出してやる、絶対許さないって思ってたのに、何も出来なかった!……許せないのにっ……どうすれば良いのか…分からない………私っ…」

「柚希さんっ!」


白鳥は前に倒れ込む柚希の身体を慌てて受け止めた。
気を失っただけだという事にひとまず安堵すると、抱え上げて先程休んでいた所へと移動させる。


(ここなら、“アイツ”がすぐ気付くだろ……)

「柚希嬢、あなたにそんな黒い感情は似合いませんよ…。」


そっと寝かせた柚希の頭を撫でながら、苦しい表情でそう言った声は、白鳥のものではなかった。

update 2015.03.18
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