薔薇と宝石の約束




jewel.51
〈痛む心が壊れる前に 26〉







灰原の案内と阿笠博士が持ってきた縄梯子で、何とか地下から脱出した面々が一息ついていると、光彦が城の異変に気付く。


「大変です!お城が燃えています!!」

「えっ!?」


全員が慌てて城の入り口の方へ走って行くと、既に炎は城全体を覆い、逃げ口も到底無い状態になっていた。


「コナンくん…柚希お姉さん…。」


歩美のか細い声をかき消すように音を立てて燃えゆく城に、何も出来ずただ立ち尽くす。


(……新一)

「…バカ。」


蘭は新一の顔を思い浮かべて、声に出さずに名前を呟き、灰原は悲しげな瞳で城を見つめながら小さく言葉を漏らす。
そして居ても立っても居られなくなった子ども達は、城に向かって叫ぶ。


「コナンくーん!!」

「あんだよ、うるせーな。」

「「「?!」」」


後ろから聞こえた声に全員が驚いて振り返ると、博士のビートルに寄りかかるようにして、エッグを持ったコナンが立っている。


「コナンくん?!」

「このエッグ、白鳥刑事がスコーピオンから取り返してくれたよ。」

「白鳥が?!…で、スコーピオンはどうした?」

「逮捕して、車で連行して行ったよ。…スコーピオンの青蘭さんを。」


小五郎の質問にそう答えると、心底驚いた様子で“何ー!!”と叫び、セルゲイも信じられないという顔をする。


「あの美しい足の青蘭さんが、スコーピオンだったなんて…。」

「はい、これ夏美さんに渡してくれって。」

「ありがとう。」


意味の分からない理由で落ち込んでいる小五郎を余所に、コナンがエッグを返すと、通報を受けた消防車が向かってくる音が聞こえ始めた。

何とも言えない表情で燃え続ける城を見つめる夏美に気付いた小五郎は、そっと声を掛ける。


「夏美さん、申し訳ありませんな…こんな事になってしまって…。」

「いえ、お城は燃えましたけど、私には曾祖父が作った大事なエッグが残ってます。それに、地下室は無事だと思いますし…。」

「はい…落ち着きましたら、曾祖母様の御遺骨を、喜市様と一緒のお墓に埋葬致しましょう。」


夏美の前向きな言葉に、沢部は優しい笑みを浮かべてそう言った。


「それにしても、とうとう現れなかったか…キッドの奴。」

「やっぱり、死んじゃったのかなぁ…。」

「いや、奴は生きてたよ…。」

「…え?」


どこか寂しそうに言った歩美は、コナンの言葉に振り返るが、それ以上何か言う事はなく城の方を向いている。
そんなコナンの姿を、蘭がジッと見つめていた。


「それで、柚希…お姉ちゃんは無事なの?」

「ん?あぁ…柚希ねーちゃんならあそこで休んで……っ?!」


柚希の名前を出した途端に周りの視線が集まるのを感じた灰原がぎこちなく言うのを聞いて、それに合わせた返事をしながら柚希の居る方に視線を動かすと、さっき座っていた筈の柚希が倒れている姿が目に飛び込んだ。


「柚希っ…柚希ねーちゃん!」

「どうしたっ?!」


コナンが駆け寄るのに一歩遅れて小五郎達も柚希の元に集まる。


「…取りあえず、気を失ってるだけみたいだな。」

「柚希ねーちゃん、城から脱出する直前に、呼吸を荒くして、ふらついてたんだ。」


コナンがそう言うと、小五郎は柚希の額に手を当てる。


「少し熱があるようだし、疲れが溜まっていたか、風邪か…って所だろうが、とにかく安静にするのが一番だな。すぐに家に送ろう。蘭、お前は柚希ちゃんの家に着いたら着替えさせたりしてやれ。」

「分かった!」


柚希を抱き上げて車の後部座席に寝かせる。
それを確認してから助手席に乗り込んだ蘭がコナンを呼んだ。


「僕、後ろに乗って柚希ねーちゃんの様子見てるよ。」

「……そうね、心配だもんね。」


一瞬間を置いた蘭の返答に不思議そうな顔をしたコナンだが、小五郎にせかされて車に乗り込む。

走り出した車に揺られながらコナンが心配そうな目で柚希を見つめていると、首元に何か光る物が見えた。


(こいつ、ネックレスなんてしてたか?)


博士に貰った発明品のネックレスは、学校の時以外はブレスレットとして着けていると言っていたばずだし、実際左手首に着けているのが見えている。
不思議に思ったコナンは、服に隠れて良く見えないそれのチェーン部分をそっと引いて、トップを手に取る。


(これは!)





『新一見て!!お父さんに貰ったの!ピンクで可愛いでしょっ!』

『ん?ネックレスか?』

『うん!お守りなんだって!だから、いつか大事な人が出来たらあげても良いよって。』

『ふーん。』





『柚希、ネックレスどうしたんだ?毎日付けてたじゃねーか。』

『えっと…無くしちゃったの。』

『無くした?!ったく、一緒に探してやるよ。何処で無くしたんだ?』

『あ、良いの。もうお母さんと探したし、お父さんにも謝ったから。』

『けど、あんなに気に入ってたじゃねえか。』

『良いの。ありがと新一。』





(10年も前に無くした筈なのに、何で今頃…)


考えても分かるはずのない疑問を抱えながら、コナンは柚希を見つめ続けていた。

update 2015.03.23
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