−− この人…こいつはっ……私の、大切な人を傷つけたっ!
(柚希にあんな顔をさせたのは、俺か…)
白鳥として犯人の青蘭を警視庁に届けた後、快斗は人気のない河原に座っていた。
(船でも城に行ってからも、様子がおかしいのは分かったのに、気にかけてやることすら出来なかった…。それどころか、危険な目に合っててもまともに助けてやれなかった…。“俺が何が何でも守ってやる”なんて、思っただけで結局何も出来てねーじゃねえか…。)
−−全てを知らなければ守れない部分もあります。
(ジイちゃんの言ってた意味、分かった気がするぜ…。柚希の側にいる以上、“巻き込みたくねぇ”なんて、ただの言い訳でしかねえんだ。)
快斗は立ち上がると迷いのない目で空を見上げてから歩き出す。
(まぁ先ずは、“あっち”からだな…)
jewel.52
〈痛む心が壊れる前に 27〉
雨の降りしきる音が響く中、コナンが探偵事務所のドアを開けると、蘭は開けたままの窓際で、椅子に座りながら鳩を撫でている。
「おじさん、もう寝ちゃったよ。疲れたみたいだね。」
「うん、仕方ないよ。大変だったもの…。」
そっと鳩を籠の上に戻して立ち上がり、窓の外を見る蘭の声に、いつもの元気が無いと気付いたコナンは、不思議そうな顔をする。
「蘭ねーちゃん…。」
「ありがとう…お城で助けてくれて。あの時のコナン君、格好良かったよ…。」
そう言って振り返った蘭の瞳が潤んでいるのを見て、コナンはハッとする。
「まるで新一みたいで…。本当に……新一みたいで…。」
(…蘭……)
「でも…別人なんでしょ?」
ボロボロと涙を零す蘭に、コナンは何も言えなくなる。
「そうなんだよね…。」
「……。」
「コナン君…?」
(………限界、だな…)
コナンは諦めたように一瞬フッと笑みを零すと、そっと口を開く。
「あ、あのさ…蘭…。実は…俺、本当は…。」
「…新一。」
「えっ?!」
言いながら眼鏡を外したコナンは、自分の名前を呼んだ蘭の視線が入り口の方を向いているのに気付き、慌てて振り返った。
事務所の入り口に寄りかかるようにして立っているその姿は、間違いなく“工藤新一”そのものの姿。
「本当に新一なの?」
「あんだよその言い草は…。オメーが事件に巻き込まれたって言うから、様子を見にきてやったってのによ!」
(んなバカな?!………あ…まさか!)
有り得ない事態に目を見開いたコナンは、1つだけ考えられる可能性に気付いて“新一”をジッと見つめる。
「バカ!どうしてたのよ、連絡もしないでっ!」
「悪い悪い…事件ばっかでさ。今夜もまたすぐに出掛けなきゃならねぇんだ。」
「…待ってて!今拭くもの持ってくるから!」
雨で濡れている新一にそう言ってから、蘭は2階へと駆け上がって行く。
それを確認してから外へと歩いていく新一の後を、コナンが追いかけた。
「待てよ!怪盗キッド。」
雨が降り続ける中、探偵事務所を後にしようとしていた新一は、コナンの声を聞いて立ち止まる。
「まんまと騙されたぜ…。まさか、あの白鳥刑事に化けて船に乗って来るとはな…。」
口元に笑みを浮かべた、新一に変装したキッドがピイッと指笛を鳴らすと、事務所の窓から白い鳩が飛び立ちキッドの肩へ留まった。
「お前、分かってたんだな。あの船の中で何か起きる事を…。」
「確信は無かったけどな。一応、船の無線電話は盗聴させてもらってたぜ。」
そう言いながらキッドは、マジックで白い鳩を出しては自分の身体に留まらせていく。
「もう1つ。お前がエッグを盗もうとしたのは、本来の持ち主である夏美さんに返す為だった。お前は、あのエッグを作ったのが香坂喜市さんで、“世紀末の魔術師”と呼ばれていた事を知っていた。だからあの予告状に使ったんだ。」
「ほーう。他に何か気付いた事は?」
「夏美さんのひいおばあさんが、ニコライ皇帝の3女、マリアだったってこと言ってんのか?」
ニヤリと笑みを浮かべて言うコナンとは対照的に、キッドの顔からは笑みが消える。
「マリアの遺体は見つかっていない。それは、銃殺される前に喜市さんに助けられ、日本へ逃れたから。2人の間には愛が芽生え、赤ちゃんが生まれた。…しかしその直後に彼女は
亡くなった。喜市さんは、ロシアの革命軍からマリアの遺体を守るために、彼女が持ってきた宝石を売って、城を建てた。それをロシア風でなくドイツ風にしたのは、彼女の母親のアレクサンドラ皇后がドイツ人だったからだ。」
−−ドイツのノイシュバン・シュタイン城に似てますね。
白鳥の言葉から疑問に思っていた事も、マリアの事が解れば自ずと明白になる。
「…こうしてマリアの遺体はエッグと共に秘密の地下室に埋葬された。そして、もう1個のエッグには城の手がかりを残した。…子孫が見つけてくれる事を願ってな。…とまあ、こう考えてみればすべての謎が解ける。」
「君に1つ助言させて貰うぜ。世の中には、謎のままにしといた方が良い事もあるってな。」
「確かに、この謎は謎のままにしといた方が良いかもしれねぇな。」
次々と増やしていく鳩は、既にキッドの身体を半分程隠している。
「じゃあこの謎は解けるかな?“名探偵”。何故俺が工藤新一の姿で現れ、やっかいな敵である君を助けたのか…。」
update 2015.03.28