−−ガチャッ
「おぉ、白鳥君!今回はお手柄だったな!」
警視庁のとある1室で、高木と共に青蘭の取り調べをしていた目暮は、部屋に入ってきた白鳥の姿を見ると明るくそう言った。
「何の事です…?私はたった今、軽井沢から戻ってきた所ですが…。」
「…は?」
キョトンとした顔で言う白鳥の言葉に、目暮は思わず間抜けな声を出した。
jewel.53
〈痛む心が壊れる前に 28〉
「じゃあこの謎は解けるかな?“名探偵”。何故俺が工藤新一の姿で現れ、やっかいな敵である君を助けたのか…。」
「バーロ…んなもん謎でも何でもねえよ。お前が俺を助けたのは、ソイツを手当てしたお礼…だろ?」
呆れたような顔で言うコナンに、キッドは鳩をひと撫でしてフッと小さく笑う。
一呼吸置いてから、コナンはキッドを見る目を真剣なものに変えた。
「そんな事より……お前、狙撃されてから今まで、柚希に連絡なり会うなりしたのか?」
「…いや。」
「だったら……すぐにアイツの所に行け。どうせ家も知ってんだろ?」
想定外の言葉にキッドが目を丸くしていると、コナンは不機嫌そうな顔で続ける。
「本当はオメーなんかと関わらせたくねぇ。…けどな、柚希の様子がおかしかったのは、明らかにお前が原因だ。だったら、お前が無事な姿を見せるしか、解決策はねぇんだよ。」
「……様子がおかしいのは、俺も気付いてた。悪かったよ、大事な妹に心配かけさせて…。」
素直に謝ったキッドに一瞬驚いてから、コナンは不服そうな様子で口を開く。
「お前と柚希がどんな関係か、今は聞かないでやる。…でも勘違いするなよ?アイツには、子供の頃からずっと想い続けてる奴がいるんだ。オメーなんかに入る隙はねぇ…これ以上は関わるな。」
真剣な顔で言うコナンをしばらく見つめてから、キッドは口を開く。
「それは……“バラの男の子”の事か?」
「何だ、知ってるんじゃねーか。」
全身が覆われる程の鳩を出したキッドは、コナンの目を真っ直ぐ見ると、不適な笑みを浮かべる。
「それは…大変光栄な話だな。」
「……っ?!」
「新一ぃーっ!!」
コナンが何か言おうとした瞬間、蘭が新一を呼びながら降りてくるのと同時に指を鳴らしたキッドは、羽ばたく鳩達に紛れて姿を消した。
(あの話を聞いて“光栄”だと…?まさか奴が……それとも
漆黒の星の時のように、からかいやがっただけか?)
コナンは、鳩が飛んでいく先を鋭い目で睨みつけていた。
(まさか、アイツから柚希の所に行けなんて言われるとはな。名探偵も、結局は妹に甘い只の兄貴って事か…。)
誰もいないビルの階段を上りながら、新一の格好からキッドの姿へと一瞬で着替える。
(柚希の兄貴があの工藤新一だって知った時は驚いたけど…柚希から名前は聞いてたから、苗字と合わせれば“工藤新一”の名前は自然と分かる。それに父親が推理小説家って事も話してた。俺の母さんも、柚希の母さんのエッセイのファンだとか言ってたから、現役かは兎も角芸能人だ。……ちゃんとヒントは出てたし、考えれば分かったんだな。)
そんな事を考えながら屋上に着くと、さっきまで降り続けていた雨は嘘のように止んでいる。
(まぁまさか、あのガキがその工藤新一だなんて、流石にすんなり信じられなかったが…。)
辺りを見渡すと、目指すべき場所の方向を確認して屋上の縁へと歩く。
(2人の電話と、何よりあの推理力を見せられたら、信じねえ訳にはいかないよな…。)
−− だったら……すぐにアイツの所に行け。
「お前に言われなくても…行くに決まってるだろ!」
バッとハンググライターを広げると、キッドは夜空へと飛び出した。
小五郎に家まで送ってもらう途中で目を覚ました柚希は、心配して部屋まで送ると言う蘭達を何とか言いくるめて、エントランスの前で別れた後、そっと自分の部屋へと入る。
管理人に頼んでおいた窓がちゃんと閉めて貰えているのを確認すると、適当な部屋着に着替えてからソファーに力が抜けたように座る。
−−柚希、お前まだ家に居んの?
−−−オメー……部屋の窓開けたままだったぞ。
−−−−おー、次は気を付けろよ。
「快斗……。」
最後に聞いた快斗の声を思い出しながら、柚希は胸元のネックレスを握り締める。
ゆっくりと横になると、そのまま頭がボーッとするのを感じながら、柚希は意識を手放した。
☆update 2015.04.10