「あのさ、柚希。1つ聞いて良いか?」
「うん、何?」
さっきまでの話の余韻で、笑顔で答える柚希は、快斗の質問を聞いて僅かに顔を強ばらせる。
「俺は少し離れた所に居たから、しっかり見えた訳じゃねえけど…あの城でお前が……剣みたいなので銃弾を弾き飛ばしたように見えたんだけど…あれ、何だったんだ?」
「あー…………あれ、見てたんだ。」
言うか、言うまいか。
ほんの一瞬迷ってから、柚希はそう苦笑した。
jewel.57
〈述懐 3〉
「取りあえず…“あれは何だったのか”の答えは、見えたものそのままだよ。」
「そのままって…じゃあ本当に銃弾を弾いてたのかよ?」
「うん。…私、小さい頃から剣道やっててね、自分で言うのも何だけど、かなり強いんだ。」
「いや、いくら剣道が強くてもあれは無理だろ。」
快斗が苦笑しながらそう言うと、柚希は快斗の方を見ていた顔を背ける。
「確かに、普段ならさすがにあんな事は出来ないよ。でも……あの時の私は、分かり易く言えばキレてたの。キッドを、快斗を傷つけたスコーピオンを…本気で殺してもおかしくない程の殺気を出してた。そんな邪念があれば集中出来ないのが普通なんだけど、私は逆に“許さない”っていう強い念で、今まで感じたこと無い程に集中出来た。」
「柚希…」
「…知ってる?ライフル弾の速さは大体秒速1000m位なんだけど、それに比べて拳銃はその3分の1の、秒速350m位しかないの。そう考えて相手の手元をきちんと観察すれば、弾道を読んで弾く事だって可能ではあるんだよ。」
快斗の声を遮って話し続ける柚希の手を、快斗は強く握り締めた。
「悪い…俺のせいで柚希をそこまで追い詰めてたんだな…。」
「っそれはもう良いの!快斗が無事ならそれで。そうじゃなくて…自分でも知らなかった私のこんな部分を、快斗に知られるのが怖かったの。快斗に、嫌われたくなかった。だって、もし状況が違ったら、あの人を殺してた可能性だってあるんだよ?!」
「でも殺そうとなんてしてないだろ?」
柚希が恐る恐る快斗の方を見ると、いつもの大好きな、ニッと笑う顔。
「お前あの時言っただろ?“許せないのに、どうすれば良いか分からない”って。つまり、柚希の中でそんな物騒な考えは最初から無かったんだ。大体、それって俺の為の復讐心から来てる訳だろ?だったら柚希が手を汚す程怒る事なんて絶対ねえよ。さっきも言ったけど、お前の前から居なくなったりしない。俺はやられたりしねえからな!」
そう言って柚希の頬にそっと触れる。
「だから…そんな泣きそうな顔しないでくれ。」
「快斗……ありがとっ。」
自分の奥底で残っていたわだかまりを洗い流してくれた快斗に、柚希は精一杯の笑顔で答えた。
暫くの間柚希の頭を撫でていた快斗は、そういやもう1個質問あったんだ、と言って手を降ろす。
「あの剣みたいなのって、何処から出てきたんだ?そんなの持って無かっただろ?」
「あれね、普段スカートの時は………このホルダーで太ももに隠し持ってるんだよ。」
立ち上がり、枕元にある小さな棚の引き出しから携帯ブレードとホルダーを取り出すと、こんな感じ、と言って部屋着のパンツの上から足に巻き付けて見せた。
「え、それただの筒に見えるんだけど…。」
きょとんとした快斗の言葉に、柚希は得意気な笑みを見せる。
「ここのボタンを押しながら、こうするのっ。」
軽く振り下ろすと途端に長さの伸びたそれに、快斗は目を見開いた。
「…まじ?」
「まじ!もう一度押せば、ほら元通り。竹刀と比べると軽すぎるくらいだけど、持ち運びには便利だし、特殊な素材で出来てるからすっごく丈夫なんだよ。」
楽しそうに説明する柚希に、まだ驚きを隠せない快斗はさらに尋ねる。
「そんなの、何処で手に入れたんだ?」
「知り合いに阿笠博士っていう発明家の人がいてね、その人に作ってもらったの!新……コナン君が使ってる色んな道具も、阿笠博士の発明だよ。」
一瞬、新一の名前を出しそうになって誤魔化す柚希に、快斗は小さく笑う。
「まぁ、あんな小さい体になっちまったら、そういう道具がねぇと出来ない事も多いだろうしな。俺にとっては厄介でもあるけど。」
「…………快斗、今何て?」
「お前の兄貴の工藤新一、小学生なんかになっちまって大変だよなって話?」
「何で知ってるの?!」
あまりにサラッと言う快斗に思わず大声を出してしまう柚希を落ち着かせると、快斗は船の無線電話を盗聴していた事などを説明する。
「何でんな事になってるのかは知らねえけど、誰かに言いふらしたりするつもりも無いから安心しろよ。」
「うん、助かるよ。」
一安心した柚希が、蘭にコナンの正体がバレそうになっていたのを思い出し、それも解決したと聞いて快斗に何度もお礼を言ったのは夕食の後の話。
update 2015.04.24