「柚希っ!!もう大丈夫なの?!」
休んだ翌日、家まで迎えに来てくれた快斗と共に教室に入ると、それに気付いた青子が大きな声を出して駆け寄って来くる。
「すっかり良くなったよ。心配してくれてありがとう。」
「良かったー!」
飛びついてくる勢いでそう言う青子を嬉しく思いながら席へ向かうと、他の子も心配してくれていたらしく次々と声を掛けてくれて、柚希には後ろの快斗と青子の会話は聞こえない。
「そういえば昨日帰って来てたんだよ、彼。」
「げ…。」
「まあ、今日また向こうに行っちゃって、来週まで帰って来れないらしいんだけどね。」
「…帰って来なくて良いっつうの。」
jewel.58
〈白が黒にもたらすモノ〉
いつもと変わらない朝、昇降口で会った快斗と共に教室に向かい、一緒に席まで歩く途中で柚希は違和感を感じた。
「ねぇ、何か女子のテンションが高い気がするんだけど…。」
「あぁ…どうせアイツのせいだろ。」
「アイツ?」
快斗の素っ気ない言い方を不思議に思い、柚希は先に来ていた青子の方を見た。
「そう!今日からまた日本に帰って来てるの。」
「…誰が?」
「ほら、先週柚希が休んだ日があったでしょ?あの日も帰って来てたんだけど、またすぐ向こうに行っちゃってたの。」
「うん…誰が?」
「それは僕の事かい?」
突然後ろから聞こえた声に驚いて振り返ると、見たことの無い茶髪の男の子が立っていた。
その後ろに目を輝かせた女子達が群がっているのには気付かないフリをして、柚希はその彼と目を合わせる。
「はじめまして、僕は白馬探。探偵をやっています。」
「あ、転入してきた工藤柚希です。あなたも探偵なの?」
「あなた“も”と言うと?」
差し出された右手を握り返しながら尋ねると、白馬は不思議そうな顔をする。
「私の兄も高校生探偵なの。」
「へぇ…。工藤と言うともしかして、工藤新一君かい?」
「知ってるの?」
「直接は知らないけれど、彼は日本では有名だからね。しかし、確か彼は僕らと同い年のはず…柚希さん、誕生日は?」
「3月30日だよ?」
口元に手を当て一瞬考えるように視線を外した後、そう柚希に聞くと、白馬はその答えになるほど、と満足そうな笑みを浮かべる。
「では工藤君は4月か5月辺りの生まれで、1つ歳の離れた兄妹だが、ギリギリ同学年だという事ですね?」
「正解。双子なのかって聞かれなかったのは初めてだよ。」
「男女の双子が生まれる事も勿論有り得る事だけど、確率はかなり低いからね。誕生日が学年の区切りに近ければ、この可能性の方が十分高いってだけさ。」
自信満々な様子で当然の様に言う白馬に、新一と被る部分を感じて柚希は小さく笑う。
「やっぱり探偵という人種は、大体において同じ様な思考をしてるんだね。小さなカケラから常に何かを読み取ろうと、無意識に色んな事を推察してる。」
「まぁそれが探偵の性ってやつだからね。最も、僕はイギリス暮らしが長いのもあって、日本では工藤君のような知名度は無いけれど。」
「イギリス?それって…ロンドンの方だったりする?」
「えぇ…最近は日本に戻る事が多くてこの高校に入ったけれど、それ以前はロンドンブリッジ・ハイスクールに通っていたからね。」
質問の意図を図りかねながらもそう答えると、途端に目を輝かせる柚希に驚いて、白馬は僅かに目を開く。
「良いなぁ!私、海外はお父さんに色んな所へ連れてってもらったけど、イギリスにはまだ行った事がないの。ロンドンでの生活なんて夢みたいで羨ましい!!」
「ロンドンに何か思い入れでも?」
「だって、ロンドンはホームズの街だよ!?」
間髪入れずにそう答えた柚希に、白馬は僅かな間の後に小さく吹き出してしまう。
「なるほど、君はシャーロキアンなのか。それならロンドンは憧れの地と言っても過言では無いんだろうね。」
「おい白馬!いつまでも柚希と喋ってねーで、ファンの相手でもしたらどうなんだよ?」
楽しそうに笑う白馬に、それまで黙って会話を聞いていた快斗が痺れを切らしたかのように割って入ってきた。
「おや黒羽君、君がそこに居たなんて全然気付かなかったよ。それにしても、僕が誰と話そうと君には関係のない事だとは思わないかい?」
「関係大アリなんだよ!テメーのせいで柚希が立ちっぱなしじゃねえか!こいつは病み上がりなんだから無理させるんじゃねえ!」
「か、快斗?もう1週間も経って病み上がり処か何とも無いってば…。」
柚希が快斗の袖を少し引っ張りながらそう言うと、快斗は優しく微笑みながら取りあえず座るように柚希を促す。
「フッなるほど…そう言う事か。」
その快斗の様子を見て白馬は笑みを浮かべると、椅子に座っている柚希の前に片膝を付いて座る。
「柚希さん。今度邪魔が入らない時にでも、ロンドンの知りたい事を色々お話しますよ。写真も沢山あるし……いや、どうせならロンドンへ招待しても良い。」
「え?!いや、さすがにそれは悪いから…。」
白馬の想定外の提案に柚希が目を丸くして答えると、白馬は柚希の左手を取る。
「とんでもない。貴女の様な綺麗な方なら大歓迎だ。」
「っ?!」
手の甲に落とされた一瞬の口付けに、柚希は驚いて身動きが取れなくなる。
「っ!白馬テメー何してっ…」
「僕の方はいつでも構わないので、柚希さんがその気になったら遠慮なくどうぞ。」
掴み掛かりそうな勢いの快斗を無視して柚希にそう微笑むと、白馬はファンの女子の群れへと消えて行った。
update 2015.05.04