薔薇と宝石の約束




快斗に連れられてたどり着いたカフェは、柚希にも見覚えのある店だった。





jewel.7
〈待ちわびた再会 3〉







「お、良かった空いてるぜ。」


店員のお好きな席へどうぞ、という声に迷わず店の奥に進んだ快斗は、一番奥の席を見つけてそう言った。


「此処って……」

「“あの時”の場所!取りあえず座ろうぜ。」


得意気な笑みを浮かべて、柚希を席に促す。

やってきた店員に飲み物を注文すると、キョロキョロと周りを見ている柚希に快斗から声をかける。


「懐かしい?」

「うん!此処に来るのはあの時以来だから。変わってないんだね。」


柚希は母の有希子に、快斗は父の盗一に連れられて、小学生の時に2人が一度きりの出会いをした、同じ店の同じ席。

嬉しそうに言う柚希に快斗は微笑む。


「お待たせ致しました。」


飲み物を並べた店員が下がったのを確認してから、快斗は柚希の目の前に右手を出す。

何だろう、と柚希がその手を見つめると、突然ポンッという音と共にその手に一輪のバラが現れた。


「これやるよ!お前可愛いから!」

「っ!!!」


10年前と同じマジックと同じ台詞、そして同じニッと笑う顔。


「ありがとうっ!!」


やっと会えた嬉しさが込み上げ、めいいっぱいの笑顔にうっすらと涙が浮かぶ。


(ちょ…反則だろ、その顔は!)


快斗が赤くなる顔を必死に抑えようとしていると、柚希が口を開く。


「あの時、本当に嬉しくて、次に会った時にこれを見せたかったんだけど…。まさか10年後になるなんて。」


そう言って柚希がテーブルの上に置いたのは、バラの押し花で作ったしおり。


「これもしかして、あの時のバラを?」

「うん、綺麗に保存するのは押し花が一番だろうって聞いて、すぐに作ったの。」

「そっか。大切にしてくれてたんだな。」




《ありがとう!大事にするね!》

《俺も!》




昔の約束を思い出し、快斗は胸ポケットからお守りを出す。


「俺も、同じだよ。」


お守りの紐を解いて、中から取り出した布を広げると、淡いピンクの石“エンジェルスキンコーラル”のネックレスが出てきた。


「私があげたネックレス!すごい…こんなに綺麗な状態なんて!傷つきやすい物なのに。」

「親父が宝石に詳しくてさ。見せたら本物だって言うから、扱い方を教わったんだ。」

「ありがとう。約束守ってくれて」


−ピリリリリ


突然、柚希の携帯が着信を告げる。


「ごめん、出ても良い?」

「おー、気にすんな!」


快斗に断りをいれてから、知らない番号からの着信に、恐る恐る出る。


「…はい?…え、新一?でも番号が……あぁ、そっちの…………うん、分かった。」

(え…男?まさか彼氏とか……)


柚希の口から出た“新一”の名前に、快斗は複雑な気持ちになる。


「え、家に来る?何で?!…………今、友達とお茶してるから無理。…………哀にも見てもらって決めたんだから、大丈夫!とにかく今日はしばらく帰らないから。じゃあね。」


電話を切った柚希は、ふぅ、と溜息をつく。


「あ、快斗ごめんね。」

「いや、大丈夫だけど……」


煮え切らない様子の快斗に、柚希は首を傾げる。


「どうしたの?」

「いや…あのさ。……もしかして、今の電話…彼氏、とか?」


言いにくそうに躊躇いながら言うと、柚希はポカンとして快斗を見た後、クスクスと小さく笑う。


「今のはお兄ちゃんからだよ。」

「へ…お兄ちゃん?」


間の抜けた声を出す快斗に、さらに笑みを深くして柚希は説明する。


「うん、年は1個上なんだけど、誕生日の関係で学年は一緒だから、昔から名前で呼んでるの。それに彼氏なんて居る訳ないよ!」

「そういや、教室でそんな事言ってたな。てか、普通居ると思うだろ、柚希可愛いんだから!」

「っ!」


昔の台詞では無く、突然言われた“可愛い”という言葉に、柚希は恥ずかしそうに口元に手を当て、顔を真っ赤にする。

それを見て、自分の言った事に気付いた快斗は同じく真っ赤にした顔を、隠すように背けた。


それからしばらく気恥ずかしさで話が出来ない2人だったが、不思議と気まずさは感じず、むしろ心地良い穏やかな時間が流れていた。

update 2014.10.13
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