柚希の隣にいるのはいつでも俺なんだと
自分の中で勝手に決めつけて安心してたんだ
jewel.60
〈白が黒にもたらすモノ 3〉
「快斗、今まで手伝いさせられてたの?ご飯ちゃんと食べられた?」
「あぁ。」
午後の授業が始まる直前に教室に戻ってきた快斗から返ってきたのは、随分と素っ気ない返事。
最初こそ、色々手伝わされて疲れたのだろうと気にしていなかった柚希も、いつもなら授業中でもアイコンタクトやメモでの会話など、何かしらのやり取りがあるのにそれも無い事に違和感を感じていた。
(やっぱり変、だよね。どうしたんだろう……これじゃ、本当に白馬君の言った通りだ…)
昼休み、ホームズの話で盛り上がりながらお弁当を食べ終わった頃、ふと白馬が真面目な顔で聞いてきた。
『所で柚希さん、クラスの子から聞いたのだけど…黒羽君の事が好きだというのは本当かい?』
『えっ?!…………うん、そうだよ。子供の頃に1度だけ会った時に一目惚れして、あれから10年経って再会した今も、それは変わらないの。』
顔を真っ赤に染めて嬉しそうに答える柚希に、白馬は少し複雑そうな顔をする。
『あまりこういう事は言いたくないが…彼はやめた方が良い。』
『…どうして?』
『君を、彼が幸せに出来るとは僕には思えない。今は良くても、いずれ君に何かしらの迷惑を掛ける事になる。』
『…………白馬くん、警視総監の息子さんなんだってね?』
『え?えぇ、まぁ。』
急に話を変えた柚希に驚きつつも白馬が答えると、柚希はそのまま続ける。
『怪盗キッドの犯行現場にも良く顔を出してるって聞いたけど、捕まえられそうなの?』
『今のところは何とも。しかし、彼は必ず現行犯で捕まえてみせます。』
『そっか。…私はね、探偵の兄を誇りに思ってるし、犯罪は犯罪、自分で犯す気も全くない。………それでも、いつか白馬君の“邪魔”をする事は、あるかもしれない。』
遠い空を見上げながら言う柚希の言葉に、快斗が怪盗キッドだと知って尚、覚悟もしているのだと悟ると、白馬は表情を和らげる。
『…柚希さんがそこまで分かって言っているのなら、僕はクラスの皆と同じく、君と黒羽君を応援するとしよう。』
『え?』
『…取りあえず、教室に戻ったらきっと黒羽君の様子が違うだろうから、休み時間や放課後に僕が話し掛けたら、柚希さんは僕に話を合わせるように。』
『…えっと、どういう…』
何の話か理解出来ずに戸惑うのも気にせず、白馬は続ける。
『明日…いや、今日中にはきっとハッキリするさ。但し、応援するとは言ったけど、黒羽君が柚希さんを悲しませるような事があったら、いつでも僕に頼ってもらって構わないよ。』
スッと立ち上がるとその場を立ち去ろうとする白馬に、柚希は我に返る。
『ねぇ白馬君。』
白馬が足を止めて振り返ると、そっと疑問を投げ掛ける。
『どうしてそこまで、私の事を気にしてくれるの?』
『君と同じさ……一目惚れだよ。』
フッと笑ってそう告げると、再び校舎に向かって歩き出した。
授業を進める教師の声など全く耳に入らない状態で、快斗は教科書の一点を見つめていた。
(なんで柚希が白馬と2人で、そう思ってから初めて気付いた。柚希が誰と居ようが、そんなのアイツの勝手であって、“そこは俺の居場所だ”なんて、ただの自惚れに過ぎない事だったんだ)
保健室で2人の姿を見てすぐに、駆け出そうとする快斗を止めたのは美園だった。
『今、頭に血が上った状態で押し掛けたって、八つ当たりして終わるに決まってるわ。今は我慢して、一度落ち着いてから行動しなさい。』
そう言って自分のパンを分けてくれた美園に、渋々従って保健室で時間ギリギリまで過ごしてから快斗は教室へと戻った。
『何があっても、工藤さんにだけは当たらないようにね。』
(んな事分かってる……けど、先生が止めてなかったら、確かに危なかったかもしれねぇ…)
再会してから、常に快斗と一緒に行動しようとしていた柚希に、そして彼女の兄、工藤新一であるコナンから言われた“子供の頃からずっと、バラの男の子を想い続けてる”という言葉に、自分は自惚れていたのだと、小さく溜め息をついた。
(考えてみりゃ名探偵だって、いくら兄貴だとは言え常に柚希から誰が好きだとか聞いてる訳ねぇじゃねーか…)
そこまで考えて思い出すのは、楽しそうに白馬と笑いあっていた柚希の顔。
そして、手にキスを落とされて恥ずかしそうに顔を赤らめていた姿だった。
update 2015.05.15