薔薇と宝石の約束




「あの、ほんとに白馬君の家に行くの?」

「そういうつもりでは無かったけど、そうだな…このまま黒羽君が何の行動も起こさなければ、それも良いかもしれないね。あぁ、家に誰も居ないというのは嘘だから、そこは安心して構わないよ。」


手を引かれたまま校門を出た柚希が尋ねると、白馬は悪戯っぽい笑顔でそう言った。


「それにしても、さすがの演技力だ。」

「そうかな?あんな感じで良かった?」


一歩前を歩く白馬を見ながら若干戸惑いつつ聞くと、歩みは止めずに顔だけ振り返る。


「ええ、完璧ですよ。しかし、もし事前に僕が知らせてなくても、さっきと同じ反応だったんじゃないかとは思うけどね。」

「え?」

「いや、こっちの話さ。……さて、そろそろ追いつく頃かな。柚希さん、後は君達次第だよ。」


そう白馬が言うや否や、後ろから駆けてくる足音が聞こえて来る。


「白馬っ!!」


次の瞬間聞こえた声に、柚希は勢い良く振り返る。
それに合わせて歩みを止めた白馬も、後ろを振り向くと口を開いた。


「どうしたんだい?黒羽君。君に口を出す権利は無いとさっきも…」

「そういうオメーも、柚希の意見聞いてねえだろうが!」


白馬の言葉を遮ってそう言うと、柚希と目を合わせる。


「…柚希。コイツじゃなくて、俺と来てくれるか?」


快斗の言葉に目を丸くしながらもコクリと頷くと、白馬と繋いでいたのとは反対の左手を掴まれ、ありがとな、という言葉と同時に走り出した快斗に引かれて、柚希も足を動かす。
抵抗もなく解かれた右手に振り返ると、その場に佇む白馬から、優しい笑みを返された。





jewel.62
〈白が黒にもたらすモノ 5〉







走るのはすぐに止めたものの、会話は無いまま快斗に手を引かれて歩く柚希は、手から伝わる温もりに胸が高鳴るのを感じながら、廊下で白馬と話した時の事を思い出していた。





『どうです?彼の様子は。』

『白馬くんが言った通り、いつもと違うよ。明らかに。理由は分からないけど…。』

『効果は抜群…か。あぁ、これは想定内の事。そんな不安そうな顔しなくても大丈夫。』


優しく微笑んで言ってくれる白馬に、柚希は僅かに表情を和らげる。


『今日は確か次の6限で終わりだったね?』

『うん。』

『では、放課後に僕が柚希さんを家に誘うから、君は若干抵抗があるような素振りで、でも僕の強引さに負けて付いて行く。大女優の娘さんだし、それくらい出来るかい?』

『一応、多少の演技力はあるつもりだけど…。』


母の有希子から、ちょっとした時に役立つ程度には鍛えられている柚希は、白馬の目を真っ直ぐ見て言った。


『だったら問題ないね。この後戻って何か言われたら、ちょっと照れたような様子で“何でもない”って誤魔化してくれれば良い。』

『分かったけど……これって何の意味があるの?』

『意味ならすぐに分かるさ。まぁ、これが僕なりの応援の仕方って所かな。』


それを聞いてもイマイチ分からないと言った顔をしている柚希を見て、白馬は微笑む。


『最も、もしこれでも何も変わらないようなら…』


そこまで言うと、柚希の耳元に顔を寄せる。


『その時は、僕が君の心を頂くとするよ。』

『っ?!』


不意に耳元で囁かれた言葉に、思わず固まった柚希を見て満足そうな笑みを浮かべると、白馬は教室へは入らず廊下を歩いていく。


(………また言い逃げされたっ)


思わず耳を手で押さえつつ、昼休みに次いで放たれた想定外の言葉に、柚希はパンクしそうな頭を整理するので、精一杯だった。
 









(…あの時、白馬君はすぐに意味が分かるって言ってたけど………)


未だに白馬の意図が掴めない柚希は、ただ快斗に手を引かれるまま歩く事しか出来ない。
白馬の言葉から考えるに、快斗に何か行動を起こさせようとしているのは何となく分かったものの、具体的な事は全く分からないでいる。


(“君達次第”なんて言われても、何をどうすれば良いんだろう…)


そんな事を考えていると、快斗が立ち止まり、漸く自分の家の前まで来ている事に気付いた。


「なぁ柚希。ちょっと…上がって行っても良いか?」

「え、うん。もちろん大丈夫だよ?」


キョトンとした表情で答えるのを聞いてから、快斗は再び柚希の手を引くと、エントランスへと入って行った。

update 2015.05.23
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