−−ピリピリピリ
「もしもし。」
《僕です、白馬探。》
帰宅中、鳴り響いた着信音に携帯を取ると、青子は歩くペースを落として相手の声に意識を向ける。
《協力、感謝するよ。》
「一応言われた通りの流れって感じだけど、青子演技とか無理だから、ただ思った事言っただけだよ?」
《えぇ、それで十分です。中森さんには、黒羽君の背中を押して貰えれば、内容は何でも良かったんですから。》
「これであの2人、上手く行くと良いんだけど…。」
《ここまでお膳立てしたんだ、これで踏み出せないなんて事になったら、僕は彼を軽蔑するよ。》
「じゃあその時はクラス中で快斗に非難の嵐を浴びせなきゃね!」
言葉と裏腹に何処か楽しそうな白馬の声に、青子も笑ってそう言った。
jewel.63
〈白が黒にもたらすモノ 6〉
「飲み物何が良い?今あるのはコーヒーと紅茶、牛乳だけなんだけど…。」
「…牛乳。」
冷蔵庫を覗き込む様子を、ソファに座った快斗は顔だけ振り返ってしばらく見つめる。
コップに注いでから再び冷蔵庫にしまうのを見て、こちらを振り返る前に視線を戻した。
「はい。テレビ見る?」
「いや、いい。」
テーブルに牛乳と自分のアイスティーを置くと、拳2つ分程の距離を空けて快斗の右隣に座る。
「……快斗、何かあった?」
居心地が悪いわけでは無いが続く沈黙に、溶けた氷がカランと音を立てるのを聞いてから柚希はそっと問い掛けた。
「え?」
「午後、何か様子が違ったから。」
心配そうな視線を送ってくる柚希に、無駄な力が抜けたように一度息を吐く。
「悪ぃ、心配させてたんだな。………昼休み、お前白馬と中庭に居ただろ?」
「え……何で…」
「1箇所だけ、校舎から見える所があるんだ。そこから偶然見た。」
「…そう、なんだ。」
別にやましい事がある訳ではない。
しかし、白馬と2人きりの所を“快斗に見られた”という事実に、ショックを受けている自分に気付き、柚希は戸惑う。
「そんなの見た後に、休み時間は2人で話してるし、放課後は白馬に連れてかれちまうし…。アイツに話しかけられたり…キスされたりして赤くなってるお前を見たら、何か自信無くなっちまってさ。」
「…自信?」
「再会してからずっと…たとえキッドの事を知っても、柚希は俺が隣に居る事を許してくれてた。俺はそれに甘えて、自惚れてたんだ。白馬が現れて初めて気付いた。お前が、他の奴の隣を望んだっておかしくないんだって。」
「そんな事っ!」
思わず声を上げた柚希を、快斗は目の前に手を出して止めた。
さっきショックだったのは、快斗に勘違いして欲しくないせいなのだと気付いた柚希は、否定させて貰えずにもどかしさが溢れそうになる。
「だけど……それは全部俺の中で勝手に考えた事だ。柚希の気持ちは何も聞いてない。だから、改めて聞く。」
その言葉に、柚希の不安そうに揺れていた瞳が僅かに大きくなった。
「10年前、初めて会った時からずっと…お前に抱いた気持ちが薄れた事は、一度もない。」
真っ直ぐ見つめてくる快斗の瞳に、体中が動く事を忘れ、只でさえ静かだった部屋から完全に全ての音が消えたかの様に感じる。
「好きだ…柚希。これからは彼女として、俺の隣に居てくれないか?」
「…っ……………っはい…!」
大粒の涙が次々と零れ落ちる中必死に紡いだ声は、決して大きいものではなかったが、快斗には確かに届いていた。
親指の腹で優しく撫でるように涙を拭うと、濡れた瞳は笑顔を見せる。
「っ私も……あの時から…ずっと変わる事なく、快斗の事が好きだよ。」
「…夢みてぇだ。」
「私だって…。」
お互いを見つめながら小さく笑い合うと、快斗の手がそっと柚希の頬を包み込む。
「でも、夢じゃないんだな。」
「うん。…会えなかった時間以上に、ずっと一緒に居てね。」
「…嫌だって言っても離してやらねぇ。」
優しく微笑んだ快斗の顔が、ゆっくり近付くのを感じて、柚希は自然と目を閉じる。
出会った時はまだまだ子供だった
それでも、お互い心に抱いた気持ちは確かなもので
それ以降会うことが出来なくても、迷いなく信じ続けていた
10年の年月をかけて手繰り寄せた
小指に括られた長い長い赤い糸の先は
しっかりと繋がって2人を手の届く位置へと導いた
『出会ってくれて、ありがとう。』
update 2015.05.30