「て事は俺、白馬の思うままに転がされてたのかよ…。」
柚希が白馬とのやり取りを大まかに説明すると、快斗は大きく溜め息を吐いた。
「でも、何でアイツがそこまで協力なんて…。」
「あー………。」
快斗の尤もな疑問に、柚希は気まずそうに視線を逸らした。
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〈白が黒にもたらすモノ 7〉
あからさまに困惑したような顔をする柚希に、心当たりがあるのかと聞くと、恐る恐るというように白馬から言われた事を快斗へ伝えた。
「…一目、惚れ………って白馬が?……柚希に?」
言われた事を繰り返して理解した頃には、快斗の表情は不機嫌そのものになっていて、柚希は言わない方が良かっただろうかと不安そうな顔をする。
「……あぁ悪ぃ、そんな顔すんなって。ちょっと悔しかっただけだし…。」
「悔しい?」
「…アイツには色々先越されちまったから。」
何の事か分からずに首を傾げていると、快斗は言いずらそうに視線をさ迷せる。
「お前言ってただろ?“家族以外からキスされるのは初めてだ”って。」
「あれはっ!………手だけだし…。」
「それだけじゃない。中庭のあの場所、本当は俺が連れて行きたかったんだ。クラスの皆と慣れない内から連れ出したら悪いと思ってまだ遠慮してたのにあの野郎…。挙げ句の果てに先に告白までしやがって…。」
「………ちょっと待ってて。」
本音を零す快斗を見つめていた柚希は、そう言って立ち上がるとベッドの枕元に置いてある棚の引き出しから何かを取り出してソファへと戻る。
「ねぇ快斗…もう一度、これを貰ってくれる?」
「これ!?」
差し出した手の平にあったのは、淡いピンクの石のネックレスとお守り。
狙撃されて海に落ちた時に無くしてしまったはずのそれに、快斗は目を丸くした。
「拾ってくれたのか?」
「エッグとかの近くに落ちてるのを偶然見つけて、持ってたの。」
「そっか……悪ぃ、落としちまって…。今度から仕事の時は首に着けて、絶対無くさねえから。」
そっと手に取ってから申し訳なさそうに言うと、柚希は優しく微笑む。
「これはね、元々お父さんが私にプレゼントしてくれた物なの。このエンジェルスキンコーラルは私の誕生日、3月30日の誕生石で、魔除けの意味もあるんだって。」
「え?だったら、やっぱ柚希が持ってた方が良いんじゃ…」
「貰った時に言われたの。“いつか、大切な人が出来たらあげても良い”って。まぁお父さんも、そんなすぐにあげる人が見つかるなんて思ってなかっただろうし、そもそも男性にあげて喜ばれる物でもないから、冗談も混ざってたかもしれないんだけどね。……それでも私が快斗にこれをあげたのは、どうしてだと思う?」
問いかけはしたものの、快斗の表情で想像もついていないのは分かりきっている。
柚希は答えを待たずにゆっくりと口を開いた。
「この石の宝石言葉は“変わらぬ思い”。あの時快斗と出会って、絶対にこの人に渡すべきだって直感したの。私の初恋も、一緒に居られる幸せな気持ちも、思いが通じた喜びも、“好きな人からの”キスも…私の初めてはみんな、快斗がくれたんだよ。」
「っ!」
思ってもみなかった言葉に顔を真っ赤にした快斗は、ふっと脱力したように笑うと柚希を抱き寄せる。
「…ありがとな。」
「快斗が一番だって分かってもらえるなら、いくらでも言うよ?」
下から見上げてそう言う柚希を、快斗は思わずきつく抱き締め、恥ずかしさを誤魔化すかの様に思い切り声を出す。
「っあーもー!柚希ちゃん好き過ぎるんですけどっ!!」
「…私もだもん。」
静かに零した言葉と同時に背中に腕を回す柚希に、快斗は今度こそ言葉を失った。
「ふむ、どうやらその様子だと、上手く行ったようだね?」
一緒に登校していた柚希と快斗は、廊下で掛けられた声に同時に振り返る。
「あ、白馬君!」
「げ、白馬っ!」
自分と真逆の感情が込められた声に、柚希が思わず苦笑しながら横を見る。
「黒羽君、僕から1つだけ言っておこう。もし君が彼女を泣かせるような事をしたら、その時は遠慮しないから覚悟するんだね。」
「テメーに言われなくたってんな事しねぇよ!」
食ってかかる快斗をサラッと無視した白馬は、柚希の方を向き直る。
「困った事があれば、何時でも僕に相談して下さい。」
「あ…うん、ありがとう…。」
快斗の手前、歯切れの悪い返事となった柚希に微笑むと、白馬は一足先に教室へと歩き出す。
「まぁせいぜい、その手が離れないよう頑張りたまえ。」
「……っのヤロー。」
敵対心剥き出しの快斗を何とか宥めて教室へと向かう。
何やら騒がしいのを感じながら扉を開けると、待ってましたと言わんばかりの視線が2人に注がれ、次の瞬間には全員に囲まれていた。
「快斗!よくやった!!」
「柚希ちゃんおめでとー!」
「工藤さん、ホントに快斗で良いのかよ?」
「羨ましいぞ快斗っ!」
次々と掛けられる声に驚いて固まっていると、横から肩を叩かれる。
「良かったね、柚希!」
「青子!うん、ありがとう!」
白馬君グッジョブだね、と声を潜めて言う青子にもしかしてと聞いてみると、やはり白馬から話を聞いて少し協力したという。
柚希はもう一度青子にお礼を言って、そっと人混みを抜け出した。
教室の隅で窓の外を眺めている後ろ姿にそっと近付くと、柚希はその目の前に握った右手を差し出す。
「柚希さん?」
「スリー、ツー、ワンッ!」
−−−ポンッ
不思議そうな白馬を気にする事なく、おもむろにカウントダウンをして手の平を広げると、音を立ててラッピングされた小さな箱が現れた。
「少しだけど、私からのお礼。受け取ってくれる?」
「えぇ、有り難く頂いておきます。それにしても、マジックとはね。」
「快斗にこれだけ教えてもらったの。上手くいって良かった!」
嬉しそうに笑ってもう一度お礼を言うと、皆の所に戻ろうとして再び振り返り、白馬の胸ポケットを指差した。
「ああそれから…それは素直じゃない人からの、分かり難いお礼だよ。」
今度こそ人混みに戻った柚希を見送ると、白馬はいつの間にかポケットに入っていたカードを取り出し、フッと笑った。
『オメーのムカつく行動で踏ん切りが付いたから許してやるよ!』
(この僕がカードを入れられたのに気付かないとはね…)
白馬の視線の先では、皆にからかわれつつも幸せそうな顔をしている2人の姿があった。
☆update 2015.06.04