「ねぇ新一…やっぱり子供達だけで薪拾いに行かせるのは危ないんじゃない?」
「フッそんな事言って逃げようったって無駄だぜ?」
「いやいや、何でそういう話になるの…。」
狭いテントの中、威圧感を出して睨んで来る自分の兄に、柚希は心の中で溜め息を吐いた。
jewel.65
〈兄妹喧嘩〉
−からくり屋敷編−
「キャンプ?」
「うん、阿笠博士が子供達を連れて良く行ってるらしいんだけど、それに私も呼ばれちゃって……快斗と出掛ける約束してたし、一応まだ保留にしてもらったんだけど…。」
家までの道を並んで歩きながら、快斗が繰り返した言葉に簡単な説明をする。
次の休みに映画を観に行く約束をしているのを気にして、申し訳なさそうに意見を求めて見上げてくる様子に、快斗は安心させる様に笑った。
「実はさ、俺もその日仕事が入っちまって謝ろうと思ってたんだ。だから気にせず行って来いよ。」
「そうなの?良かったー。哀にも頼まれちゃったから断り難かったんだ。」
「哀?」
何度か聞き覚えのあるような気がする名前を繰り返すと、柚希は快斗の顔を一瞬見つめてから、そうか…と呟く。
「名前までは知らないんだね。ほら、新一にくっついて少年探偵団を名乗ってる子達は知ってるでしょ?あの中の、茶髪の子が灰原哀。大人びた子でね、話が合うんだよ。」
「あぁ、あの子か…。」
確かに小学生にしては落ち着いて見える子だとは思っていたが、高校生の柚希と話が合うというのはさすがに違和感が拭えない。
まさか工藤新一と同じく幼児化したのだろうか。
しかし、そんな簡単には信じられない存在が身近に2人も居るだなんて…そこまで考えた所でふと柚希の表情が暗くなっているのに気付いた。
「どうした?」
「んー、気の重いイベントもあるのを思い出しちゃって。」
苦笑いする柚希に先を促すと、快斗にもちょっと関係ある話ではあるんだけど…と前置きしてから一言簡潔に説明する。
「エッグの件以降、新一と連絡取ってないの。」
「……そういう事ね。」
細かい事まで聞かなくても想像のつく内容に、快斗も思わず苦笑いしてしまう。
心配して連絡をくれた蘭への返事はしてあるため、体調が戻った事などは聞いているだろうが、柚希自身、何だかんだでゴタゴタしていたのもあって、コナンへ直接連絡するタイミングを見失ってしまっていた。
今回、灰原からもキャンプに来るように言われた時の“保護者は多い方が良い”というのはあくまでも体裁で、言葉の裏には“工藤くんが面倒だからどうにかしてちょうだい”という意味が込められているのは明らかだ。
子供達の隙を見て尋問会が開かれるのは逃れられそうにない。
前回と違って簡単には騙せないであろう状況に、どうやって誤魔化そうかと小さくため息を吐くと、隣を歩く快斗からあのさ…、とやけに気まずそうな声が聞こえてきた。
「柚希に、謝らないといけねぇ事があるんだ…。」
「…謝る?」
意外な言葉に少し驚きながらそう聞くと、快斗は辺りに人が居ないか簡単に見回してから、柚希の方に視線を戻した。
「この前、名探偵と話した時にちょっと調子に乗りすぎてさ……つい“キッドはバラの男の子だ”って分かるような事言っちまったんだ…。」
「…………確認したい事が1つ。」
「おう…。」
「それって…確信を持つレベルの言葉だった?」
余計な事を、と怒るだろうか…そう心配しながら恐る恐る言ったのだが、柚希から返ってきたのは大分落ち着いた声色。
しかし、静かに怒る人が一番怖いとも聞くし、等と考えつつ快斗は質問に答える。
「確実ではないけど、アイツの捉え方次第だな。」
「…そっか。……じゃあまだ言い切れば何とかなるかな。」
「……なぁ柚希、怒ってねえの?」
「…………何で?」
我慢出来ずに尋ねた快斗の言葉に、俯いて考えていた柚希はそのままの体勢で目を見開くと、ゆっくりと快斗の方を見てポツリと零した。
「いや、俺余計な事言っちまったし…。」
「だってそれを言ったのは快斗の意思でしょ?もちろん、新一に正体がバレない方が良いに決まってるけど、正直いつまでも隠し通すのは無理かなって思ってるし、快斗も新一の事知ってるしね。……それに、もし正体を知っても“お前は現行犯で捕まえる!”とか言うタイプだよ、お兄ちゃんは。」
そう言ってクスクス笑い出す柚希に、快斗は呆気に取られていた。
(まぁ取りあえず、誤魔化せる所まではしらを切ると快斗には言ったけど、何処まで信じてくれるか……)
キャンプへ向かう博士のビートルの中、わいわいとハシャぐ子供達とは裏腹に、柚希は心の中で小さく溜め息を吐いた。
update 2015.06.09